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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)7077号 判決

判決理由の骨子

一 大阪国際空港に発着する航空機、とくにジェット機がもたらす騒音のため、発着コース直下に居住する原告らが被つている被害は甚大である。右被害については、航空機を運航させている航空会社に責任があることはいうまでもないが、航空機による利用を前提として空港を設置、管理している被告国(運輸大臣)も右被害の原因を与えているものということができる。そして被告は航空機自体の安全運航を図るだけではなく、空港利用に関して第三者に損害を及ぼすことのないような方法でこれを管理運用する義務があるところ、被告が従来講じてきた防音対策は一般的にいつて不十分なものというべきであるから、被告はその管制に従つて本件空港に発着する航空機がもたらす騒音により原告らに被らせた損害について不法行為責任を免れない。

二 大阪国際空港を、午後一〇時から翌日午前七時までの間航空機の発着に使用させることは、原告らの睡眠の確保に重大な支障を来たすものであるから、被告は緊急その他やむを得ない場合を除いて右時間帯に航空機を発着させてはならないが、午後一〇時までの時間帯の差止請求は、本件空港が内外の航空輸送上果している重要な役割等から判断してこれを認めることはできない。

判決要旨

第一 本件空港の設置、規模と原告ら居住地域

大阪国際空港は、第一種空港として被告国(運輸大臣)が設置管理しているものであり、全長一、八二八メートルのA滑走路と昭和四五年二月に供用開始された全長三、〇〇〇メートルのB滑走路を備え、大型ジェット機を対象に年間一七万五、〇〇〇回の運航処理能力を有している。

一次、二次原告らが居住する川西市東久代二丁目(高芝、むつみ地区)、久代五丁目(摂代地区)は、空港北西端から北西約一、五〇〇メートルないし二、〇〇〇メートル以内にあり、また三次原告らが居住する豊中市走井(走井地区)、勝部、勝部東町(勝部地区)、利倉、利倉北町、同南町(利倉地区)、利倉東町、穂積(利倉東地区)、服部西町三丁目、四丁目、寿町三丁目(西町、寿町地区)は、空港南東約二、〇〇メートル以内にあり、いずれも本件空港に離着陸する航空機の飛行経路のほぼ直下に位置している。

第二 原告ら居住地域における航空機騒音等の実情

一本件空港における航空機の離着陸状況

本件空港には国内、国外の多数の航空会社が乗入れており、昭和三九年六月にジェット機が就航して以来、乗入機種は次第に多様化、大型化し、離着陸回数も増加の一途をたどっている。

一日の離着陸回数は、昭和四〇年七月当時一八八機(うちジェツト機三〇機)、昭和四五年三月当時三六七機(うちジェット機一六五機)、昭和四七年四月当時四一八機(うちジェット機二四八機)であつて、離着陸の平均間隔も、七時から一九時までが五分弱から二分(ジェット機は三三分弱から三分半)に、一九時から二二時までが六分強から三分半(ジェット機は二二分半から四分強)にと、次第に短縮されてきており、離着の最もひん繁な時間帯では一分四〇秒位ごと(ジュット機で二分三〇秒位こと)という有様で、東京や大阪の国電のラッシュアワーに匹敵する程である。

二航空機騒音

本件空港周辺における測定結果等によると、原告ら居住地域での騒音量およびB滑走路供用開始の前後により多少の高低はあるが、大型ジェット機で九〇ないし一〇五ホン、中小型ジェット機で八五ないし一〇〇ホン、YS一一等のプロペラ機でも八〇ないし九〇ホンであり、WECPNL値でいうと概ね九〇ないし九五に達している。公害対策基本法に基づいて最近定められた航空機騒音に係る環境基準では、住居専用地域については七〇WECPNL以下、それ以外の通常の生活を保全する必要がある地域については七五WECPNL以下とされていて、本件空港の場合は五年以内に八五WECPNL未満、一〇年以内に七五MECPNL未満の改善目標を達成しつつ段階的に環境基準が達成されるようにするものと定められているが、原告ら居住地域ではこの環境基準における数値を遙かに上回っている。また、機種別の騒音量も、騒音規制や大阪府、兵庫県の公害防止条例に基づいて定められた工場騒音、自動車騒音の規制基準の数値を大幅に上回つている。

三排気ガス、ばい煙

走井地区、勝部地区では、空港に隣接している関係でジェット機が排出する排気ガス等の影響を受けているが、これらの地区における一酸化炭素、窒素酸化物、浮遊粉じん等の濃度は大阪市内のそれに比べてやや低く、概ね環境基準に定められた数値以下である。しかも、航空機の離着陸回数が午後五時以降少しも減少していないのに、有害物質の濃度が午後五時以降減少ないし激減していること等からすると、右地区の大気汚染は、ひとり航空機の排気ガスのみによるのではなく、阪神高速道路大阪、池田線を通行する自動車や付近の工場等の排気ガスにも起因する可能性が強い。

四航空機騒音による振動

原告ら居住地域、ことに高芝、むつみ地区、勝部地区、走井地区では、ジェット機が飛来するごとにガラス窓か震え、建物によつては建物全体が振動することもあり、調査の結果では、建物の加速度は概ね三〇ないし四〇ガルとなつていて、無視できない振動である。

第三 被害

本件空港に発着する航空機、特にジェット機の発する前述のごとき騒音は、日常生活上他に例を見ないものであり、そのため本件空港の離着陸コース直下に住む原告らが被つているいらいらや不快感など精神的な面における被害は極めて大きく、しかも右騒音による被害は、会話の妨害、テレビラジオの視聴の支障、思考の中断、睡眠妨害等日常生活のあらゆる面に及んでいる。もつとも、原告一人一人について見れば、年令、職業、健康状態等に応じて被害の内容や程度は様々であるが、ある被害は他の被害の原因ともなつていて、その影響するところは複雑かつ深刻である。

なお、原告らは右のような生活妨害、心理的被害のほかに、これが昂じて健康をも害されているとして、難聴、胃腸障害、高血圧、流産、ノイローゼその他種々の身体的、精神的被害をも主張している。そして、学者等の調査研究等の中には、騒音が人の精神的、身体的健康に害を与えるという報告も見受けられるが、その多くは定常騒音についての調査研究であつて、航空機騒音のような間欠的で一過性の騒音にそれがどこまで妥当するかは必ずしも明らかでない。航空機騒音の乳幼児への影響を調査した報告については、他の要因が影響していないかどうかを詳細に検討する必要があり、聴力損失を調査した報告についても、実験室内での長時間にわたる実験環境自体の影響を考慮すると、それが現実の生活環境に具体的にあてはまるかどうかの調査研究が必要である。従つて、原告ら主張の身体的、精神的被害が航空機騒音に起因するかどうかの判断は、今後の調査研究にまつほかはなく、また原告ら主張の症状や疾患が他の種々の原因によつて生ずるものでもあること等を考え合わせると、右のような症状や疾患についてはそれが直ちに本件航空機騒音によるものと認めることはできない。

第四 本訴請求の根拠と被告の責任

一人格権、環境権

個人の生命、自由、名誉その他人間として生活上の利益に対するいわれのない侵害行為は許されないことであり、かかる個人の利益はそれ自体法的保護に直するものであつて、これを財産権と対比して人格権と呼称することができる。そして、本件における航空機騒音の如く、個人の日常生活に対し極めて深刻な影響をもたらし、ひいては健康にも影響を及ぼすおそれのあるような生活妨害が続継的かつ反覆的に行なわれている場合に、これが救済の手段として、既に生じた損害の填補のため不法行為による損害賠償を請求するほかはないものとすれば、被害者の保護に欠けることはいうまでもないから、損害を生じさせている侵害行為そのものの排除を求める差止請求が一定の要件の下に認められてしかるべきである。この場合、差止請求の法的根拠としては、妨害排除請求権が認められている所有権その他の物権に求めることができるが、物権を有しない者でも、個人の生活上の利益は物権と同様に保護に値するから、人格権にも侵害排除の権能を認め、人格権に基づく差止請求ができものと解するのが相当である。

ところで、原告らは人格権のほかに環境権の侵害をも主張しているが、憲法一三条、二五条の規定は、国の国民一般に対する責務を定めた綱領規定であつて、これらの規定によつて直接に、個々の国民について具体的な請求権、特に公害の私法的救済手段としての環境権なるものが認められているわけではない。また、環境が破壊されたことによつて個人の利益が侵害された場合には、人格権の侵害を理由に損害賠償請求や差止請求をすることができるから、環境権を認めなければ個人の利益が守れないということはない。現に、本件においても、原告らは航空機騒音による居住地域一般の環境境破壊を強調してはいるか、これは結局のところ原告ら個人個人の生活上の利益の侵害に還元することができ、また原告らは同時に個人の健康や生活利益に被害がもたらされていることをも個別的、具体的に主張しているから、殊更に環境権という概念を持出さなければその主張を維持できないものではない。

なお原告らは、環境権によつて具体的被害が発生する前に侵害を食い止め、また個々人の法益を越えて環境破壊を阻止することができるというが、かような役割を環境権に持たせようとするのであれば、それは私法的救済の域を出るものであり、実定法上の明文の根拠を必要とするといわなければならない。

二不法行為責任

航空機騒音による被害については、航空機を運航させている航空会社に責任があることはいうまでもないが、航空機による利用を前提として空港を設置し、管理している者も、右被害の原因を与えているということができる。そして、空港の設置管理者としては、航空機の安全運航という空港利用に直接関連のある管理義務があるだけでなく、空港利用に起因して第三者に損害を及ぼすことのないような方法でこれを管理する義務があり、これを本件に即していえば、国は、本件空港に発着する航空機の発する騒音等により原告らに被害を生じないように空港を管理すべきであり、したがつて右管理行為が違法である場合には、国はその管制に従い本件空港に発着する航空機の発する騒音等により原告らに生じた損害につき国家賠償法一条一項による賠償責任を免れることはできない。

三差止請求と三権分立との関係

被告は、本件差止請求は結果的には、運輸大臣が営造物の管理権に基づいて定めた空港管理規制の変更を求めることになるから、三権分立の建前上許されないと主張している。しかしながら、本訴は人格権の侵害に基づいて空港の管理主体である被告に対し一定時間内の空港使用の禁止という不作為を求める民事訴訟であつて、空港管理規則の設定変更を求める行政訴訟ではないから、三権分立の建前とは何等関係がなく、また本訴が認容された場合に運輸大臣としては右管理規則において本件空港の運用時間を定める必要があるとしても、それは認容された私法上の請求権を実現するためのひとつの方法に過ぎず、右管理規則の設定変更を裁判所が命じたことにならない。

第五 違法性について

本件航空機騒音による被害につき、被告に不法行為責任があり、また差止請求が成立するとするためには、被告の本件空港の管理行為が違法であると評価できることが必要であるが、違法かどうかの判断は、被告の行為によつて生ずる被害が原告らにおいて受忍すべき程度を越えたものかどうかを基準としてすべきである。そして、その際に考慮すべき要素としては、侵害行為の態様と程度、侵害された利益の性質と内容、侵害行為の公共性、被害防止のための対策の内容が主要なものと考えられる。

まず、本件航空機騒音をもたらしている航空機の発着状況や、原告ら居住地域における騒音量は前述のとおりであり、発着回数は昭和三九年のジェット機就航以来毎年増加していたが、昭和四五年のB滑走路供用開始以後は更に飛躍的に増加し、原告ら居住地域の上空を殆んど絶え間なく飛来し、これに伴い、その発する騒音の程度も、機種の大型化、ジェット化と相まつて増大し続けてきた。このような量の騒音は、工場騒音等極めて限られた特殊な場合を除いては他に例を見ないといつて過言ではない。およそ人間が社会生活を続けて行く限りは騒音から隔絶されることは不可能であり、文明の発達に伴い日常生活のあらゆる部面で騒音が生じているが、多くの場合は被害者と加害者との間に地位の交換が考えられまた騒音を発する媒体によつて各人が何がしかの利益を享受しているのが通常であつて、そのためある程度の騒音は社会生活上やむを得ないものとして受忍されている。しかし、そこにはおのずから一定の限度があるはずであり、本件航空機騒音の如くその程度が著しいものについて、空港周辺地域に居住する原告らだけが何時も一方的にこれを耐え忍ばなければならない理由は見出し難い。

そして、原告らかこれによつて受けている被害は、現在のところ健康障害にまでは至つていないにしても、前述の如く精神上のものに止まらず、日常生活上のあらゆる面に及んでおり、原告らだけでなく家族にも累を及ぼしているだけに、その影響するところは複雑かつ深刻である。また、現在のところ特定の疾病と結びつかないような内容の被害であつても、長年月の間には徐々に身体や精神に悪影響をきたような場合もあり得るわけであるから、到底なおざりにすることはできない。なお、航空機騒音に係る環境基準が各種の調査研究に基づき、聴力損失等の健康障害や睡眠妨害、会話妨害、不快感をきたさないことを基本として設定されていることからすれば、原告ら居住地域におけるWECPNLの数価も、被害の程度を知り受忍限度を考える上での重要な尺度であるといわなければならない。

他方、被告においては航空機騒音の防止、軽減を図るべく、従来から郵便輸送以外の深夜便の禁止、時間帯別騒規則措置、騒音監視体制、軽音軽減のための離陸、上昇方式、防音壁、防音堤の建設等の対策をとつてきたほか、航空機騒音防止法に基づく空港周辺対策として、教育施設等の騒音防止工事の助成、共同利用施設の整備助成、移転補償の実施の措置を行なつている。そのうちには学校の防音工事の如くかなりの成果を上げているものもないではないが、従来の対策は一般的にいつて満足すべきものとはいい難い。しかも、本件航空機騒害については、かねてから地元住民が再三にわたり空港当局等に抗議や陳情を繰返しており、被告の対策もこれを受けてなされてきたのであるから、被告において結果発生を予見していたものであつて、かかる予見の下で不十分な対策しかとれなかつたことは問題である。本件空港を今後も引続き存置する以上は、従来のような弥縫的な対策から一歩進んで、民家の防音工事の助成、空港周辺地域の整備等の対策を早急に実施し、更には騒音証明制度や現用ジェット機のエンジン改修等の音源対策にも力を注ぐ必要がある。

なお、本件空港がわが国の航空輸送の上で、内外共に重要な役割をしていることは疑いないが、かかる公共性があるからといつて、直ちに賠償責任が免責されることにはならないのであり、前記のように原告らに深刻な被害を生じていることを考慮するならば、公共性を理由に被害者に受忍を強いることは到底許されない。公共性の犠牲者たる原告らには、公共の責任においてその損失を償うべきものである。

以上の諸点のほか、原告ら居住地域の性格、本件空港の規模およびこれと右各地域との場所的関係、航空機の離着陸方法、発着回数の増加程度とこれに伴う騒音量の変動その他諸般の事情を基礎として考えると、従来のような程度の対策の下で本件空港に航空機の発着を許容してきたことは、不法行為責任の面では、川西市のうち高芝、むつみ摂代地区、豊中市のうち走井地区、勝部地区の原告らの関係においては遅くとも昭和四〇年初め頃から、豊中市のうち利倉地区、利倉東地区、西町、寿町地区の原告らの関係においては遅くとも昭和四五年初め頃から受忍限度を越えるものと評価すべきであり、違法性を帯びるものというべきである。従つて、被告の管制に従つて本件空港に発着する航空機がもたらす騒音等により原告らが損害を被つている以上、被告は右損害について不法行為責任を免れず、国家賠償法一条一項により右損害を賠償する義務がある。

第六 差止請求について

本件差止請求の内容は、本件空港を毎日午後九時から翌日午前七時までの間一切の航空機の発着に使用させてはならないというものである。そして、右時間帯に発着する航空機は、旅客機が午後九時から一〇時までの間に国際線で一週間に入路線二二便あり、着陸機一六機、離陸機六機、国内線では一日の着陸機九機、離陸機七機であり、午後一〇時以降は郵便輸送機のYS一一が毎日八回離着陸している。

右のうち郵便輸送機についてみると、その公共性は高いけれども、離着陸の時間が深夜であるため、その騒音は原告らの睡眠の確保に重大な支障を来たしていること、WECPNLの数値の上でも深夜の一機は昼間の一〇機に算定されていること、環境庁長官は昭和四六年一二月二八日運輸大臣に対し本件空港では午後一〇時以降の航空機の発着を行なわないように勧告していること、運輸大臣は右勧告に基づき昭和四七年四月以降午後一〇時以降の航空機の発着は緊急の場合以外は行なわないものとし、郵便輸送機については輸送の代替手段を考慮して段階的に廃止する措置をとる旨明らかにしていること、深夜の郵便輸送機を廃止しても、これを他の時間帯に移し、集配事務の合理化を図ることや他の交通機関の利用等の代替手段によつて配達の遅れを最少限に食い止めることが可能であり、またその具体的方策も環境庁長官の勧告以来相当の日時を経過した今日、既に用意されているものと思われること等を斟酌すると、深夜の時間帯にいまなお郵便輸送機を本件空港に発着させていることは差止請求の面でも受忍限度を著しく越えたものであつて、違法といわざるを得ない。

しかし、午後九時から一〇時までの時間帯の航空時の発着については、国際線の場合は出発地における出発時刻や接続路線との関係から、本件空港の到着時刻の繰上げは困難であり、国内線の場合も出発地での用務の関係や航所要時間等からすると、右時間帯の発着は必要度がきわめて高いものと判断され、これらの航空機の発着を差止めることは内外の航空輸送上重大な影響を及ぼすものである。また環境庁長官の勧告も、右のような国民の生活時間帯を考えその必要性の極めて大きいことを考慮して、午後一〇時以降の発着を行なわないものとするにとどめたと思われる。以上の点を考慮すると損害賠償請求の関係は別として、差止請求の関係では、午後九時から一〇時までの航空機の発着については受忍限度内にあるものといわざるを得ない。

第七 損害賠償請求について

一過去の慰謝料について

不法行為による精神的損害は、被害者一人一人について各別に生じているのであるから、これに対する慰謝料も本来ならば各人の個別的事情に応じて差異を生ずるのは当然であるが、本件にあつては程度の差こそあれ、各人に同時にまたは時を異にして一様に生活妨害が生じているという点が重視されるべきであり、かつそれが広範囲に及ぶ騒音被害であることから、各人の個別的事情は、本件航空機騒音により通常生ずべき損害の認定に必要な事項、即ち居住地域および右地域および右地域内に居住を始めた時期、居住期間、家族構成等につき考慮するにとどめ、各人の主観的事情は斟酌しないこととし、そのほか、本件侵害行為の性質、被害の内容および程度、被害軽減のための対策の実施状況等諸般の事情を併せ考えた上、慰謝料の額を定めるものとする。

ただし、B滑走路の供用開始時である昭和四五年二月以降に居住を開始した三名の原告については、航空機騒音の激化の事情を知りながら転入してきたものと認められるから、被害地域内にあえてみずから進んで住居を選定したことになり、これに本件被害の内容および程度や本件空港の公共性を考えると、右三名の被害につき被告に慰謝料の支払義務を負わせることは妥当でなく、この種損害については右三名において受忍すべきものである。

二将来の慰謝料について

被告は本件航空機騒音による原告ら空港周辺住民の日常生活上の障害を軽減するため、近く移転補償区域の拡大、移転補償における代替地の斡旋、民家防音工事の助成等各種の対策を講ずる予定であり、しかもその一部については既に予算措置を講じているが、そのほかにも深夜の郵便機の全廃、騒音量の制限等の措置を期待し得ないわけではない。

そして、かかる対策が講じられた場合には、その結果いかんにより原告らが被るであろう精神的損害も軽減されもしくは消滅することも予想されるが、右対策の実施およびその効果の発生は将来にまつべきものであるから、慰謝料算定の基礎となる事実ないし条件はまだ確定していないといわざるを得ない。従つて、原告らのこの点に関する請求は失当である。

三弁護士費用

本件訴訟の遂行には専門知識と技術を必要とし、原告らが本件訴訟の遂行を弁護士に依頼したことは、原告らの権利の伸長にとり必要やむを得ない措置であるから、委任に伴う出費は本件不法行為から通常生ずる損害というべきである。従つて、訴訟の性質、難易、認容額等諸般の事情を考慮して、弁護士費用の相当額を被告に負担させることとする。

判決

当事者の表示

別紙一当事者目録記載のとおり

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  被告は、別紙二の第一ないし第七表記載の原告らのために、大阪国際空港を毎日午後一〇時から翌日午前七時までの間緊急その他やむを得ない場合を除いて、航空機の離着陸に使用させてはならない。

二  被告は、

1  別紙二の第一表記載の原告らに対しそれぞれ金五七万円および内金五〇万円に対する昭和四八年六月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、

2  別紙二の第二表および第三表記載の原告らに対しそれぞれ金三五万円および内金三〇万円に対する前同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、

3  別紙二の第四表および第五表記載の原告らに対しそれぞれ金二四万円および内金二〇万円に対する前同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、

4  別紙二の第六表記載の原告らに対しそれぞれ金一三万円および内金一〇万円に対する前同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、

5  別紙二の第七表記載の原告らに対しそれぞれ同表認容金額記載の各金員および慰謝料欄記載の各金員に対する前同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、

6  別紙二の第八表記載の原告らに対しそれぞれ同表認容金額欄記載の各金員および慰謝料欄記載の各金員に対する遅延損害金起算日欄記載の各日から完済に至るまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

三  前記原告らのその余の請求ならびに原告常洋子、同近藤嶋恵、同長嶺春代の請求はいずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用は全部被告の負担とする。

五  主文第二項および第四項および第四項は仮に執行することができる。

ただし、被告において、別紙二の第一表記載の原告らに対してそれぞれ金三〇万円、同第二表および第三表記載の原告らに対してそれぞれ金一八万円、同第四表および第五表記載の原告らに対してそれぞれ金一二万円、同第六表記載の原告らに対してそれぞれ金七万円、同第七表および第八表記載の原告らに対してそれぞれ同表仮執行免脱担保金額欄記載の各金員を供するときは、仮執行を免れることができる。

事実

当事者の求める裁判

第一請求の趣旨

一昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件原告のうち、原告植田祥子、同加古延子、同米田久野を除く原告らならびに昭和四六年(ワ)第二四九九号事件原告のうち、原告阪本茂、同大橋秀行を除く原告ら

1  被告は、大阪国際空港を、毎夜午後九時から翌朝七時までの間、一切の航空機の発着に使用させてはならない。

2  被告は、右原告らに対して、

(一) 金六五万円および内金五〇万円に対する昭和四五年一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員、

(二) 昭和四五年一月一日から、被告が大阪国際空港において午後九時以降翌朝七時までの間の一切の航空機の発着、ならびにその余の時間帯において、騒音が原告らの居住地域で六五ホンを超える一切の航空機の発着を禁止するまで、毎月金一万一五〇〇円の割合による金員

をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二昭和四六年(ワ)第五六六九号事件原告のうち、原告藤原とし、同安場みどり、同籠谷初子、同山本英三、同吉田末子、同戸上綾子を除く原告ら

1  被告は、大阪国際空港を、毎夜午後九時から翌朝七時までの間、一切の航空機の発着に、使用させてはならない。

2  被告は右各原告らに対して、

(一) 金六五万円および内金五〇万円に対する昭和四七年一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員、

(二) 昭和四七年一月一日から、被告が、大阪国際空港において、午後九時以降翌朝七時までの間の一切の航空機の発着、ならびにその余の時間帯において、騒音が原告らの居住地域で六五ホンを超える一切の航空機の発着を禁止するまで、毎月金一万一五〇〇円の割合による金員

をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

三昭和四四年ワ第七〇七七号事件原告のうち、原告植田祥子、同加古延子、同米田久野、昭和四六年(ワ)第二四九九号事件原告のうち、原告阪本茂、同大橋秀行、昭和四六年(ワ)第五六六九号事件原告のうち、原告藤原とし、同安場みどり、同籠谷初子、同山本英三、同吉田末子、同戸上綾子

1  被告は、

(一) 原告植田祥子に対して金五九万八〇〇〇円、

(二) 原告加古延子に対して金八二万九五〇〇円、

(三) 原告米田久野に対して金六三万二五〇〇円、

(四) 原告阪本茂に対して金八三万九五〇〇円、

(五) 原告大橋秀行に対して金六三万二五〇〇円、

(六) 原告藤原としに対して金六七万八五〇〇円、

(七) 原告安場みどりに対して金六五万五五〇〇円、

(八) 原告籠谷初子に対して金七四万七五〇〇円、

(九) 原告山本英三に対して金六六万七〇〇〇円、

(一〇) 原告吉田末子に対して金六〇万九五〇〇円、

(一一) 原告戸上綾子に対して金六二万一〇〇〇円、

ならびに右(一)ないし(五)の原告については各内金五〇万円に対する昭和四五年一月一日から、右(六)ないし(一一)の原告については各内金五〇万円に対する昭和四七年一月一日からいずれも右各金員支払ずみに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

なお仮執行の宣言は相当でないが、かりに仮執行の宣言をなされる場合には、担保を条件とする仮執行免脱の宣言をされることを求める。

原告らの請求原因

第一大阪国際空港の設置と規模ならびに原告ら居住地域

一被告は空港整備法二条所定の第一種空港として、大阪府豊中市、池田市ならびに兵庫県伊丹市の三市にまたがつて、別紙図面(一)の位置に、別紙図面(二)のとおり大阪国際空港(以下「本件空港」という。)を設置し、これを管理運用している。

二本件空港は、昭和一二年に逓信省航空局によつて「大阪二飛行場」として設置されて以来順次拡張され、終戦と共に米軍に接収されたが、昭和三三年三月全面的に返還され、昭和三四年七月「大阪国際空港」と命名されたものである。

ところで、被告は前記の通り昭和三三年三月米軍より本件空港の返還を受けるや、同年八月関西財界の要望に応じて一方的にジェット機の乗入れを前提とする空港の拡張計画を発表し、周辺住民の強い反対を押切り、土地収用を強行して建設を進めた。そして昭和三九年六月ジェット機の乗入れを認め、昭和四五年二月は三、〇〇〇メートルのB滑走路の供用を開始し、大型ジェット機の就航をも許すに至つた。

三かくして本件空港は、現在滑走路一、八二八メートル及び三、〇〇〇メートルの二本、誘導路延六、九四〇メートル、エプロン総面積約四九万平方メートルの施設をそなえ、総面積三一七万平方メートルの規模を有し、民間航空による定期便だけでも、国際線では日本航空、キャセィパシフイック航空、大韓航空、タイ国際航空、中華航空、ノースウエスト航空、パンアメリカン航空など、国内線では、日本航空、全日本空輸、東亜国内航空など、多数の航空会社が乗り入れている。

本件空港は、内陸部の人家の密集した地域に設置されているうえに、その敷地の面積が絶対的に不足しているので、滑走路は敷地一杯に設置されている。そのため、航空機は離着陸に際して、人家の真上を低空のまま飛行している状況にある。このような悪い立地条件のもとで、全面的にジェット機の乗り入れを認めている空港は、世界にも類例をみないものである。

四そして原告らのうち本訴提起後他に転居した一部の者を除き、昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件原告(以下「一次原告」という。)および昭和四六年(ワ)第二四九九号事件原告(以下「二次原告」という。)らは右空港北西端から北西に約一、五〇〇メートルないし二、〇〇〇メートル以内の地域で、また同年(ワ)第五六六九号事件原告(以下「三次原告」という。)らは同空港の南東端から南東に約二、〇〇〇メートル以内の地域で、いずれも同空港に発着する航空機の離着陸経路真下に位置する肩書地に現に居住する者である。

第二侵害行為

一本件空港における航空機の離着陸状況は、別紙三大阪国際空港年間離着陸状況一覧表記載のとおりであるが、例えば、昭和四六年五年二〇日の発着回数を見ると、一日の離着陸機数四四三機、内ジェット機は二四四機、最多離陸時間帯は午前一〇時から同一一時までで三七機、内ジェット機二三機(ジェット機の最多離着陸時間帯は午後八時から同九時までで二四機)、つまり二分弱に一機の割合で、実に国電並の発着をくり返しており、そのうちジェット機は三分に一機の割合に達している。そして右航空機の大半が、原告らの居住家屋の上を接するばかりに離着陸している。

しかもジェット機の発着回数は年々増大し、その機種はボーイング七〇七、七二七、七三七、コンベア八八〇、DC―八と多種に及んでいる。

二本件空港に離着陸する航空機が原告ら居住地域やその周辺にもたらす騒音量は、他の都市騒音に比較できない程大きいものであつて、例えば運輸省が川西市立久代小学校に設置した騒音測定塔における測定結果によれば、八〇ホン(A)(以下単にホンと表示する。)以上の航空機騒音の発生回数が一日に七〇回にも達し、最高記録騒音に至つては一〇七ホンにも及んでおり、また豊中市が昭和四五年一〇月一五日、B滑走路東南端から約二、〇〇〇メートルトル離れた服部寿町四丁目の広木戸橋において行なつた騒音調査結果によれば、同所上空を飛来するDC八―六一は一〇三ホン、DC8―55.33は一〇二ホン、ボーイング七〇七は一〇九ホン、コンベアー八八〇は一〇二ホン、ボーイング七二七―二〇〇は一〇二ホン、同一〇〇は一〇二ホン、ボーイング七三七は九九ホン、YS―一一は九八ホン、フレンドシツプ二七は八九ホンにも及んでおり、右久代小学校や広木戸橋よりもさらに空港に近接する地域に住む原告らの受ける騒音は一層甚大である。しかも、この状況は一部深夜を除き全ての時間帯にわたつている。

ところで、生活環境審議会の答申を受けて昭和四六年五月二五日に閣議決定された騒音にかかる環境基準によれば、原告ら居住地域のごとく主として住居の用に供されている地域における騒音量は、原則として、屋外で昼間五〇ホン以下、朝夕四五ホン以下、夜間四〇ホン以下でなければならないとされ、また、また騒音規則法に基づく大阪府公害防止条例二二条一項、同施行規則七条によれば、原告ら居住地域のごとき第二種区域における工場騒音は昼間六〇ホン以下、朝夕五〇ホン以下、夜間四五ないし五〇ホン以下でなければならないと定められ、さらに同条例五四条一項、同施行規則二三条二項によれば第二二種区域における道路騒音は昼間六〇ホン以下、朝夕五五ホン以下、夜間五〇ホン以下でなければならないと定められている。また昭和四六年一二月二八日の環境庁長官の運輸大臣に対する勧告によれば、航空機騒音がWECPNL八五以上の地域においては既設の住居に対しても防音工事の助成措置等を講じなければならないとされているし、中央公害対策審議会騒音振動部会特殊騒音専門小委員会が昭和四八年四月一二日に作成した航空機騒音環境基準案によれば、基準値を住居地域の屋外でWECPNL七〇とし、本件空港をはじめとする既設空港周辺においてもこれを極めて速かに達成することにしている。

右の各基準値はず必ずしも厳正とはいえないものであるが、本件空港では平均九〇ホンを超える航空機が一日四三〇回以上離着陸し、原告ら各居住地区においては各々その半数の二一五機以上が飛んでいる状態であるから、そのWECPNLは九〇ないし九五、ところによつては九五以上にもなつているのであり、原告らの受けている騒音被害はまさに想像を絶する状態にあるといつても過言ではない。

三また航空機が離着陸に際してまき散らす大量の排気ガス、ばい煙、悪臭はそれが低空飛行のため、拡散することなく、原告ら居住家屋に侵入している。さらに誘導路に近接する豊中市の走井、勝部両地区では、航空機の発進並びに発進待機の際に発生する排気ガス、ばい煙、悪臭がこれに加わり、その汚染は特に著しい。

四ジェット機の飛来は、前述した騒音ならびに排気ガス、ばい煙の被害に加え、墜落の危険に対する不安および振動による被害も深刻なものがあり、財団法人航空振興財団の調査によれば振動の加速度は一〇〇ガルにも及びこれは地震における強震に相当する。

第三被害

一一次、二次原告らの居住地域である川西市東久代二丁目の高芝地区、むつみ地区は、大阪府と兵庫県の境をなす猪名川をへだてて直ちに本件空港に接し、A滑走路先端からの距離は僅か一、二〇〇メートルないし一、七〇〇メートル、B滑走路先端からでも一、七〇〇メートルないし二、一〇〇メートルの至近距離にあつて、旧都市計画法当時から現在に至るまで住居地域に指定されており、航空機騒音さえなければ閑静な住宅地域のはずである。他方、豊中市に住所を有する三次原告らの居住地域は、空港敷地と道路をへだててこれに接している走井、勝部地区から始まつて、B滑走路南東端から約二、一〇〇メートル離れた服部寿町まで、いずれも着陸コース直下にあり昭和二〇年代に住居地域の指定を受けていたものである。走井、利倉の両地区は本件空港の拡張完了と拡張に伴う阪神高速道路空港線の開設後の環境の激変によつて、昭和四五年八月住居地居地域から準工業地域に指定変更されたものの、その他の地区は現在に至るまで住居地域として指定されたままであり、利倉地区とても準工業地域に指定変更されたとはいえ、かつての近郊農村の集落のたたずまいを色濃く残す住居密集地域である。従つて、原告らの居住地域はいずれも環境に恵まれ、のどかな生活を送ることのできる理想的な住宅地域であつたはずであるのに、航空機による異常な騒音、排気ガス、煤煙および振動等によつて、右の恵まれた環境は破壊されてしまつた。

二その結果原告らは多少の個人差はあるがほぼ等しく次のような深刻な被害を蒙るようになつた。すなわち、

1第一は不快感および恐怖感である。

原告ら居住地域では、航空機が人家の屋根すれすれに強烈な金属音に入りまじつた痛音を発しながら飛行するため、全ての者は気分がイライラし、ささいなことで腹を立て、神経過敏となつているのみならず、墜落の恐怖、不安におびえている。

さらにこれが昂じて頭痛、神経衰弱、食欲不振に悩み、精神安定剤を常用しているものも少なくない。

2第二は聴力に対する被害である。

騒音は聴力損失をもたらす。航空機騒音もその例外ではなく、少なくとも航空機の飛来直後においては全ての者が一時的聴力損失の被害をうけ、その状態が続くとやがて騒音性難聴をもたらす。原告らのなかにも難聴を訴える者が多い。

3第三は睡眠妨害である。

原告らは前述のような騒音により深刻な睡眠妨害をうけており、やつと寝ついてもまたおこされ、いつたん目が醒めたらなかなか寝つくことができず、睡眠自体も浅く熟睡できない。

4第四は日常生活の破壊である。

航空機の飛来時には、家庭での会話およびテレビ、ラジオの視聴が激甚な騒音のため著しく妨げられ、前記の不快感とあいまつて家庭の団らんが破壊されている。また注意力が集中できず、思考が中断されるのみならず、電話の通話妨害、家事労働、手内職、営業の能率の低下も著しい。

5第五は病気療養に対する妨害である。

騒音は病音は病気療者の安静を害しその治療を妨げ回復を困難にするばかりか回復した者の再発を招きやすい。

6第六は子供の教育環境の悪化である。

子供は騒音のため落ち着いて勉強ができず、思考力が減退し、人格形成にもマイナスとなつている。

7第七は排気ガス、ばい煙、悪臭の被害である。

前記航空機の排気ガス、ばい煙によつて原告らのなかには、のどの痛み、気管支炎その他呼吸器系の疾患を訴えるものが多い。その上、誘導路に近接する地域の原告らは悪臭も加わり、頭痛を訴え食欲不振に苦しんでいる。

8第八は家屋の損傷である。

航空機飛来による前述のような振動により、原告らの居住家屋に屋根瓦のずれや壁の亀裂が生じ、建具のたてつけも悪くなつている。このために修理費用もかさんでいる。

三さらに原告らのなかには、被害はこれにとどまらず、これがこうじて別紙四原告ら主張の被害状況一覧表(以下「被害状況表」という。)記載のとおり、高血圧、耳鳴り、胃腸障害、心臓の動悸、生理不順、鼻血等の被害を訴えるものも少なくない。

第四責任

一被告は、国民の生命、自由および幸福追求に対する権利(憲法一三条)、健康で文化的な生活を営む権利(憲法二五条)を積極的に保障し、国民の健康を保護し、および生活環境を保全するために、公害の防止に関する基本的かつ総合的施策を策定し、これを実施する責任を有する(公害対策基本法四条)とともに、右空港の設置者(事業者)として、騒音による被害の防止に必要な施設の整備その他必要な措置をおこない、空港周辺における航空機騒音による被害の防止等に努めなければならない責務がある(同法三条一項、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(以下「航空機騒音防止法」という。)四条)。

二ところで、被告国は前記の通り昭和三三年三月米軍から本件空港の全面返還を受けたのであるが、当時すでに本件空港周辺はいずれも人家の密集した住宅地域であり、かかる場所に空港をそのまま維持し管理運用してゆくならば、大型化、高性能化しつつあつた当時の航空機の発展状況からみて当然周辺住民の生活環境を破壊し深刻な公害をもたらすことは明らかであつた。しかるに国はそのことを認識しながら引続きこれを空港として維持してゆくことを決定したばかりでなく、前記のような立地条件を無視して大型ジェット機の乗入れと便数の増大のため空港拡張計画を強行し、昭和四五年二月これを完成させた。また本件空港を維持してゆくならば、少くともその現実の運用面においては乗入れを認める航空機を騒音、排気ガスなどをまき散らすことのない機種に限定し、便数をきびしく制限するなどして、周辺住民の生活環境をそこなわないようにすべきであつた。然るに国はこれを怠り、本件空港の返還を受けるや直ちにこれを国際空港に指定し、以後航空会社の要求をそのまま受入れてあらゆる機種、機数の乗入れを認め、昭和三九年六月には立地条件からみて乗入れの条件が備つていないのにもかかわらずジェット機の乗入れを強行し、その後三、〇〇〇メートルの滑走路の完成に伴一層大型のジェット機を乗入れさせ、公害を増大させてきたのである。

三被告のこの行為は、明らかに原告ら居住地域における健康にして快適な生活を維持し、かつ静穏な環境のもとで幸福を追求する権利(いわゆる人格権ないし環境権)を権しく侵害しているものであり、民法七〇九条の不法行為を構成すること明らかである。のみならず、本件空港は、国が設置し運輸大臣が管理する公の営造物であるところ、さきに述べたように立地条件の不備、面積の狭隘、多数ジェット機への供用等空港が本来具えているべき性質、設備を欠き不適切な運用がなされ、そのため原告ら周辺住民に被害をもたらしている以上、国家賠償法二条一項の瑕疵を有するものというべきである。

第五結び

一原告らの本訴における請求の概要は、次のとおりである。

1訴訟中に転居した者を除き、現に本件空港周辺に居住する原告らは、前記人格権ないし環境権に基づき、本来ならば航空機の離着陸の全面的禁止を求め得べきところ、差当つて人間の健康維持に欠くことのできない夜間の睡眠等を確保するため、午後九時以降翌朝七時までの間に限つて、航空機の発着のために本件を使用させないこと(夜間発着の差止)を請求する。

2原告らは、民法七〇九条ないし国家賠償法二条一項に基づき、昭和四〇年一月一日から、一次および二次原告らについては昭和四四年一二月三一日まで、三次原告らについては昭和四六年一二月三一日の間まで、現実に本件本件空港周辺に居住していた期間内に、原告らが蒙つた一切の非財産権上の損害に対する賠償の内金として、原告一人につき金五〇万円とこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。ただし、亡岡山敏雄の承継人たる原告らについては、同人の請求権を相続したもののほか、承継人固有の請求権をもあわせて請求する。

3原告らは、同じく民法七〇九条ないし国家賠償法二条一項に基づき、一次および二次原告らについては昭和四五年一月一日から、三次原告らについては昭和四七年一月一日から、被告が本件空港において航空機の夜間発着を禁止し、かつ、その余の時間帯において航空機に基因する騒音が原告らの居住地域で六五ホンを超える航空機の発着を禁止する措置をとるまでの間、一切の非財産権上の損害に対する賠償の内金として、原告一人につき毎月金一万円の割合による金員の支払いを請求する。ただし、亡岡山敏雄の承継人たる原告らについては、亡敏雄の請求権を相続したもののほか、承継人固有の請求権をもあわせて請求すること前記2の場合と同様であり、また訴訟中に他へ転居した原告らについては、金一万円に右起算日から転出月の前月末日までの月数を乗じた金員の支払いを請求する。

4原告らは、本訴の提起を木村保男弁護士を団長とする四九名の弁護士からなる大阪国際空港公害訴訟弁護団に委任したが、いうまでもなく公害訴訟の中でも最も専門的な知識と技術を駆使しなければならないものであり、弁護士に委任することなくこれを行なうことは不可能であるから、原告らが本件訴訟の遂行を前記弁護団に委任することによつて出捐することとなつた負担は、本件不法行為と相当因果関係にある損害であり、被告はその全てを償わなければならない。

ところで、原告らは、前弁護団との間で同弁護団に支払うべき弁護士費用に関し、損害賠償請求については過去及び将来の損害賠償を通じて請求額の一五パーセント、夜間発着の差止請求については原告一人につき七万五、〇〇〇円を、いずれも本裁判において認容された限度内で支払うことを約した。大阪弁護士会報酬規定九条によれば、成功報酬のみに限定しても認容額の一〇ないし三〇パーセントとされており、その他に訴訟を引き受けたときに相当の着手金を請求することができることになつているが、本訴の性格から見てこれを提起し遂行することに要する労力、時間、費用を考えれば、原告らが着手金と報酬とを合して支払いを約した右金額はむしろ控え目なものというべきである。よつて、右弁護士費用をも併せて請求する。

二一次原告であつた岡山敏雄は、昭和四五年一一月七日死亡したので、妻の原告岡山ヒラエ、子の原告岡山敏子、同岡山恭司、同岡山雅信の四名が敏雄の権利義務を承継した。なお、右原告四名は敏雄存命中から同人と同居し、現に本件空港周辺の肩書地に居住している者である。

一次および二次原告らのうち、原告植田祥子は昭和四五年三月、同加古延子は昭和四六年一二月、同米田久野は昭和四五年六月、同阪本茂は昭和四六年一二月、同大橋秀行は昭和四五年六月に、また三次原告らのうち、原告藤原としは昭和四七年一〇月、同安場みどりは同年八月、同籠谷初子は昭和四八年四月、同山本英三は昭和四七年九月、同吉田末子は同年四月、 戸上綾子は同年五月に、それぞれ従前の本件空港周辺地区から他に転居している。

三よつて、原告らは、以上の区分に応じて請求の趣旨記載のとおりの判決を求める次第である。

被告の答弁および主張

第一請求原因に対する認否

一請求原因第一(大阪国際空港の設置と規模ならびに原告ら居住地域)について

1同項一の事実は認める。

2同項二の前段の事実は認める。同後段の事実のうち、原告ら主張の頃に被告がジェット機の就航を認めたこと、三、〇〇〇メートルのB滑走路の供用を開始したことは認めるが、その余は争う。

3同項三の前段の事実は本件空港の規模を除いて認める。本件空港の規模は後述するとおりである。同後段の事実のうち、本件空港に離着陸する航空機が人家の上空を低空のまま飛行していることは認めるが、その余は争う。

4同項四の事実は認める。

二請求原因第二(侵害行為)について

1同項一の事実は認める。ただし原告ら主張日時における航空機の離着陸状況は、正確には一日の離着陸機数四一二機、うちジェット機は二一八機、最多離着陸時間帯は午後五時から同六時まで三六機、うちジェット機一九機であり、ジェット機の最多離着陸時間帯は午後七時から同八時までで二〇機である。従つて原告ら居住地域の上空を通過する機数はいずれも右各機数の半数である。なお離陸コースは操縦者の技術、機種、積載重量、風速の如何によつて上下左右にかなりの偏差を生じ、したがつて原告らに対する騒音にも異同がある。

なお被告が離着陸機につき時間規制を行つていることは後記のとおりである。

2同項二の前段の事実中、久代小学校における測定値が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は知らない。同後段の事実は概ね認めるが、騒音規制法における区域毎の基準は工場、事業場における事業活動ならびに建設工事に伴つて発生する騒音に対するものであつて、航空機騒音における受忍限度を計る尺度としては適当でない。

3同項三の事実中、航空機が離着陸に際して、排気ガス、ばい煙、悪臭を発することは認めるが、その余の事実は争う。

4同項四の事実中、原告ら居住地域における振動の加速度が一〇〇ガルに及ぶことのあることは認めるが、その余の事実は争う。なお航空機の航行に伴う空気の振動波と地震における振動波を比較することが誤りであることは後記のとおりである。

三請求原因第三(被害)について

1同項一の事実中原告ら居住地域の位置関係はこれを認める。

2同項二の1の事実中、状況次第では航空機騒音および排気ガスにより不快感、恐怖感を感じたり、気分の苛立つことのあること、同3の事実中航空機騒音が目ざとい老人らの睡眠につき多少の支障を与えることがありうること、同4の事実中航空機騒音により家庭での会話、通話およびテレビ、ラジオの視聴が若干妨げられることのあること、同6の事実中被告が防音施設を施すまでは小、中学校等において若干の授業妨害のあつたこと、以上の事実は認めるが、同項二のうちその余の事実および同項三の事実はすべて争う。なおその詳細は後記第四の六被害の態様及び程度欄記載のとおりである。

四請求原因第四(責任)について

1同項一の事実は認める。ただし航空機騒音防止法四条により航空機騒音による被害の防止等に努めるべき義務を負うのは航空機の離着陸のため同飛行場を使用する者であつて、その設置者ではない。

2同項二の事実中被告が昭和三三年三月本件空港の返還を受けたこと、およびその後これを国際空港に指定し昭和三九年六月ジェット機の乗入れを認めたこと、ならびに昭和四五年二月三、〇〇〇メートルの滑走路を完成させたことはいずれもこれを認めるが、その余の主張はこれを争う。

3同項三の主張はこれを争う。

五請求原因第五(結び)について

1同項一のうち、原告らが本件訴訟代理人らに本件訴訟の遂行を委任したこと認めるが、報酬契約の内容については知らない。

2同項二のうち、岡山敏雄の死亡と承継関係は認めるが、原告植田祥子ほか一〇名の転居時期については知らない。

第二不法行為の成否

原告らは、六五ホンのレベルをこえる航空機騒音をとらえて、大阪国際空港を航空機の離発着に使用(供用)させている国の不法行為を云々するが、騒音を発しているのは本件空港を離発着に使用する航空機自体であつて、国ではなく、国(運輸大臣)においては後述のようにこれを国の営造物として運輸大臣の定める空港管理規則により一般に利用させているものであり、したがつて騒音を発し原告らの居住地域上空を飛ぶ航空機といえども右規則に定められた供用条件に従うかぎりその使用を拒絶できるものではない。よつて国は不法行為責任を負ういわれはない。

しかも、航空機騒音については、騒音規制法は何ら規制していないばかりか、世界的な傾向をみても、ホン単位をもつて間欠的・一過的な航空機騒音の諸影響を判断することは不合理であるとして逐次各種の評価法が開発されてきているところからみても、直接右規制値を根拠に不法行為を論ずることは相当でないというべきであり、原告らに対する航空機騒音の影響は、受忍限度をこえるものとは考えられないものである。

したがつて、国は、不法行為責任を負うべきいわれはない。

第三営造物の瑕疵について

原告らは、本件空港の敷地、立地条件をとらえて、国の営造物としての本件空港の設置・管理の瑕疵を云々するが、国家賠償法二条一項にいう営造物の設置または管理の瑕疵とは、公の営造物が通常備えるべき性状・構造上等の安全性を欠いている状態をいうものであつて、航空機の離発着に供される空港が通常備えるべき安全性とは、空港を利用して離発着する航空機が安全に飛行することができる施設を有しているか否かにより判断されるべきであり、原告らのいう敷地の規模なるものは、本来瑕疵の基準となりうるものではない。

そして、かかる施設の安全性を確保するために、世界的に易認されている国際民間航空条約、同条約の附属書として採択された標準および方式ならびにこれに準拠して制定された航空法(三九条、五五条の二)に基づく設置の基準(航空法施行規則)等において詳細に空港の諸条件を定めており(これらにおいては、周辺の騒音を考慮して空港の敷地のゆとりや緩衝地帯を設けることなどは何ら規定されていない)、本件空港は、すべてこれらの基準に適合していて、空港としての機能を安全に果すうえで何ら支障はなく本件空港の設置はもとより管理にも瑕疵は存しないものである。

第四受忍限度(航空機騒音の違法性)について

航空機騒音が、一般人において社会生活を営む上で受忍するのが相当と認められる限度を超え、違法であるというためには、単にある程度以上の騒音量があることの一事をもつて直ちに判断すべきものではなく、騒音の態様・程度、被害状況、都市状況はもとより、航空の公益・公共性、騒音防止技術の可能性、騒音防止の対策努力等を綜合的に考慮して健全な社会通念に照らして判断されなければならない。

以下にこれらの諸要素について考察する。〈中略〉

第五差止め請求について

一原告らは、その居住地域における健康にして快適な生活を維持し、かつ平穏な環境を亨受する権利を有するとし、右権利を人格権ないし環境権と称し、右権利は憲法一三条、二五条、公害対策基本法三条一項、四条、航空機騒音防止法四条の規定により実体法上も承認されているというが、前記憲法の規定はプログラム規定であり、直接請求権を発生するものではない。また公害対策基本法および航空機騒音防止法の各規定は、国に対し公害ないし騒音の防止に努めるべき責務を宣言したにとどまり、特定の個人に対し環境権またはこれに基づく侵害の排除、差止めについての私法上の請求権を保障したものでないこと右規定の文言からも明らかである。

元来環境権なる概念は法体系の異なるアメリカ法の土壌で芽生えたもので、法体系の全く異なるわが国においては抽象的、理念的なものにすぎない。ところで民事訴訟は私人間の法律的紛争を客観的な法律を基準にして解決するもので、中でも差止めは他方の当事者に一定の作為、不作為を命ずるものであるから、他の自由を制約するに足る客観的に明確な法的根拠を必要とする。したがつて、かかる抽象的、理念的なものにすぎない環境権を根拠として、本訴の如き差止めの請求をすることは許されない。

二原告らは、「本件空港を毎夜午後九時から翌朝午前七時までの間一切の航空機の発着に使用させてはならない。」として空港使用の差止めを求めているが、原告らが航空機の騒音によつて被つている障害の程度は、前述のとおり受忍の範囲内にあるものであるから、本件請求はその基礎において理由がない。そもそも航空輸送の公共性、特に航空輸送体系の中に占める国際空港としての本件空港の重要性、深夜郵便機による郵便物輸送の重要な公共性、過去及び将来にわたつての国の対策の進捗状況等を総合的に考察すれば、原告らの被つている騒音障害が前述のとおりであるこことを考慮しても未だ夜間の差止めまでを求める合理性はないといわねばならない。

かりに原告らの請求どおり、本件空港において、現在の時間規制をさらに強め、午後九時から一〇時までの間の発着禁止をする場合には、遅延を考慮すればスケジュール上の航空機の発着時刻を午後八時半までとする必要があるところ、昭和四八年五月ダイヤによりその影響を検討すれば、まず国際線については、九路線(一日平均七発着)が時刻を繰上けるかあるいは当該便を廃止せざるを得ないこととなる。しかし、これらの便の到着時刻を繰上げるためには、これらの国際線が国際的規模で設定されるダイヤであるところから、出発地点における早朝の出発時刻を著しく繰上げざるを得なくなつたり、他の便からの乗継ぎが不可能にあるなどの弊害が現われ、実際上、大阪到着時間を繰り上げることが不可能なものもある。

次に、国内線についてみると、旅客便について一日一六発着が影響をうけることになる。しかし、交通機関というものは、国民の社会活動が通常行なわれている時間帯に応じて確保すべきものであるが、これらの便の路線構成を見ると、大阪と札幌、東京、広島福岡、宮崎、鹿児島というわが国の主要都市との間の長距離路線となつており、本件空港への到着便については、相手側空港の出発時間を著しく早くすることは勿論、本件空港出発便についても、用務地と空港との間の所要時間、塔乗手続き等の時間を考慮すると、現在実施している午後一〇時から翌朝七時までの間の規制が限度であり、原告らの求めるよう措置すれば、航空運送上重大な影響をおよぼすであろう。ちなみに、昭和四六年一二月の環境庁勧告においても、右の事態に鑑み、国民の生活時間を考慮して空港周辺における深夜の静穏の保持等の観点から午後一〇時以降の禁止を求めているにとどまる。

三ところで、本件空港は運輸大臣が設置し、管理する(空港整備法二、三条)国の営造物として、一般航空の用に供するものであるが、その利用条件については、管理者たる運輸大臣が航空法五四条の二、一項、五五条の二、航空法施行規則九三条の二によつて「管理規程」(昭和二七年七月三日運輸省令第四四号、空港管理規則)を定めることとされ、使用者は右利用条件に従つて、本件空港を使用しうる立場にあるものであるところ、右管理規程は、営造物管理権に基づく、営造物管理規則の性格を有し、その設定、変更および廃止の行為はすべて行政処分たる性格を有するから、原告らのいうような結果を確保するためには、右管理規程上の運用時間も午前七時から午後九時までとする運用時間を設定する必要があることになるが、かかる規程の設定を訴訟上求めることは、行政処分の給付義務を直接許容することになり、三権分立の建前上到底許されないものというべきである。

第六慰謝料請求について

一過去の慰謝料

原告らは、一次ないし三次原告を通じ、すべて慰謝料算定の起算点を一律に、ジェット機就航直後の昭和四〇年一月一日としているが、原告らが個別にそれぞれの居住地域において被る騒音の程度は、B滑走路の供用開始の前後(なお、供用開始後に居住するに至つた者もいる。)、各滑走路と居住地との位置関係、航空機の発着回数の推移、騒音防止諸対策の拡充等によつて、時期的にも大きな差があるのであつて、それ自体不合理である。

つぎに本件空港周辺でも漸次都市化の傾向が進み、居住人口は年々増加していることにも示されているように、本件程度の航空機騒音を認識しながら周辺に居住するに至つている住民も幾多存するのであつて、これがもし日常生活上受忍しえないものと考えるなら到底理解できない現象というほかはない。このことは、受忍限度を考える場合にも無視できない事情であるばかりでなく、一般にある被害の情況を認識しながらその影響下に自ら入りこんだ者は、その被害に関して他人に不法行為責任を問いえないとの法理は本件にも妥当するであろう。

なお、原告らの中には空港周辺の居住開始時期が、住民票の記載と異る者が十数名もいるが、少くともそれらの者については、その居住開始時期がその主張のとおりであるとは認められない。

二将来の慰謝料

原告らは、その居住地において航空機の騒音が六五ホン以下になるまで一人毎月一万円の支払いを求めているが、たとえ一回でも六五ホン(これ自体、測定方法、場所等特定方法に欠けるものであるが)を超える航空機騒音を問題とする趣旨であればいかにも不当なものであり、さらに右基準値の根拠とされる騒音規制法の第三種区域の規制は、そもそも同法の規制の対象とする騒音は工場騒音等所謂定常騒音であつて、航空機騒音についてのものではなく、これについてはその一過性・間欠性に着目して独自な評価方法によつて考えるべきものである。

国においては、航空機騒音による空港周辺の住民の日常生活上の障害を除去ないし軽減するため、既述のように、各種の合理的な対策を講じてきており、さらに今後なお一層騒音対策を強化・拡充すべく、騒音の実態に適つた移転補償区域の指定、移転補償における代替地斡旋、先行融資制度の確立、民家防音工事等諸々の対策を講じ、遠からず抜本的な解決を図るべき段階に至つているのであつて、これらによる原告らの障害の除去ないし軽減の効果に対する考慮をぬきにして将来の慰謝料を認めることは全く不合理なことである。

被告の主張に対する原告の反論ならびに請求原因のふえん〈省略〉

証拠関係〈省略〉

理由

第一  大阪国際空港の設置とその規模ならびに原告ら居住地域について

一  本件空港の設置管理

被告が空港整備法二条所定の第一種空港として、大阪府豊中市、同池田市ならびに兵庫県伊丹市の三市にまががつて別紙図面(一)の位置に、別紙図面(二)のとおり本件空港を設置し、これを管理運用していることは当事者間に争いがない(ただし、法令上の設置、管理者は運輸大臣であり、その位置に伊丹市とされている。)

二  本件空港の拡張経過と規模

本件空港が昭和一二年に逓信省航空局によつて「大阪第二飛行場」として設置されて以来順次拡張され、終戦と共に米軍に接収されたが、昭和三三年三月全面的に返還され、昭和三四年七月「大阪国際空港」と命名されたこと、次いで昭和四五年二月に全長三、〇〇〇メートルのB滑走路の供用が開始されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、本件空港の規模は、設置当初総面積五三万平方メートル、滑走路全長六八〇メートルおよび八三〇メートル、幅員各六〇メートルの二本であつたが、昭和一四年以降順次拡張されたため、昭和二〇年には総面積一八五万平方メートル、滑走路全長一、一〇〇ないし一、六〇〇メートル、幅員各一〇〇メートルの四本となり、昭和三三年月三の全面返還時には総面積二二一万平方メートル、滑走路全長一、八二八メートル、幅員四五メートルであつたこと、しかるところ被告国は昭和三四年七月三日空港整備法基づき本件空港を第一種空港(国際空港)に指定するとにともに拡張を計画し、昭和三七年一二月三日航空法に基づいて新たに全長三、〇〇〇メートルの滑走路を追加する拡張計画を決定し、前叙のごとく昭和四五年二月五日にB滑走路として供用を開始するに至つたこと、そして右併用開始が告示された昭和四五年一月二四日現在における本件空港の規模は、総面積三〇四万三、六〇〇平方メートル、A滑走路は全長一、八二八メートル、幅員四五メートル、B滑走路は全長三、〇〇〇メートル、幅員六〇メートル、誘導路延長四、四五五メートル、エプロン面積三二万一二三七平方メートルであつて、AB両滑走路はほぼ空港敷地一杯に設置されており、ダグラスDC八クラスの航空機を対象として年間一七万五〇〇〇回の運航(離着陸)処理能力を有していること、以上の事実が認められる。

三  原告ら居住地域と本件空港の位置関係

原告らの居住する川西市東久代二丁目(高芝、むつみ地区)、久代五丁目(摂代地区)、豊中市走井(走井地区)、勝部、勝部東町(勝部地区)、利倉、利倉北町、同南町(利倉地区)、利倉東町、穂積(利倉東地区)、服部西町三丁目、四丁目、寿町三丁目(西町寿町)が原告ら主張の位置に存することは当事者間に争いがなく、これに〈証拠〉を総合すると、右各地域は別紙図面(一)記載のとおりであつて、本件空港との位置関係は次のとおりであること、すなわち、一次および二次原告らの居住地である高芝、むつみ、摂代の各地区は大阪府と兵庫県の境をなす猪名川の西方に存し、高芝、むつみ地区はA滑走路末端(原告ら居住地域に最も近い先端を指す。以下同じ。)より北西約一、二〇〇メートル、B滑走路末端より北北西約一、七〇〇メートルの地点に摂代地区はA滑走路末端より北西約一、七〇〇メートル、B滑走路末端より北西約二、一〇〇メートルの地点で飛行経路のほぼ直下に位置しているが、いずれも旧都市計画法当時から現在に至るまで住居地域に指定されており、航空機騒音を除けば閑静な住宅地域であること、なお二次原告らの一部および一次、二次原告らの子弟の通学する久代小学校はA滑走路末端より西北西約一、九〇〇メートル、B滑走路末端より西北西約二、三〇〇メートル同じく南中学校はA滑走路末端より北西約二、四〇〇メートル、B滑走路より北西約二、八〇〇メートルの地点にあつて久代小学校は飛行経路の直下、南中学校は飛行経路のやや北方に位置していること、また三次原告らの居住地である走井、勝部、利倉、利倉東、西町寿町の名地区は豊中市の西部に存し、走井地区の原告らが居住している国産パッキング工業株式会社(以下国産パッキングという。)の社員寮はA滑走路末端より南東へ約七〇〇メートル、B滑走路末端より北へ約二七〇メートル、B誘導路より北東へ約八五メートル、第二停止線より東へ約一〇メートルの位置にあつて空港に接続し、かつA滑走路飛行経路の直下に、勝部地区はA滑走路末端より南東へ約一、三〇〇メートルないし一、六〇〇メートル、B滑走路末端より北東へ約一六〇ないし四七〇メートル、B誘導路より東へ約八〇ないし四〇〇メートルの地点にあつてA滑走路飛行経路のほぼ直下に、利倉地区はA滑走路末端より南南東約二、〇〇〇ないし二、二〇〇メートル、B滑走路末端より南東へ約九〇〇ないし一、三〇〇メートルの地点にあつて、B滑走路飛行経路の南西側にあること、利倉東地区はA滑走路末端より南東へ約二、三〇〇ないし二、六〇〇メートル、B滑走路末端より南東へ約一、二〇〇ないし一、五〇〇メートルの地点に、西町寿町はA滑走路末端より南東約二、八〇〇ないし三、五〇〇メートル、B滑走路末端より南東約一、七〇〇ないし、二、四〇〇メートルの地点にあつて、いずれもB滑走路飛行経路のほぼ直下に位置しているが、右各地区は本件空港の拡張完了と拡張に伴う阪神高速道路空港線の開設後の環境の変化によつて昭和四五年八月に走井、利倉の両地区が住居地域から準工業地域に指定変更されたもののその他地区は昭和二〇年頃以来現在に至るまで引続き住居地域として指定されており、準工業地域に指定変更された利倉地区も未だ都市近郊農村のたたずまいを色濃く残す住宅地域であること、従つて走井地区を除くその他の地区は比較的閑静な住宅地域であること、なお三次原告らの子弟が通学する豊島小学校はA滑走路未端より南東へ約三、〇〇〇メートルB滑走路末端より南東へ約二、〇〇〇メートルの地点にあつてA滑走路飛行経路のほぼ直下に位置し、同じく原田小学校はA滑走路末端より南東約一、八〇〇メートル、B滑走路末端より東へ約六〇〇メートルの地点にあつてA滑走路飛行経路の北東側に位置すること、以上の事実が認められる。

第二  本件空港周辺地域における航空機騒音等の実情

一  本件空港における航空機の離着陸状況

1昭和三九年度から昭和四七年度までの本件空港における航空機の離着陸状況の推移が別紙三大阪国際空港年間離着陸状況一覧表記載のとおりであること、現在本件空港には原告ら主張のごとき多数の航空会社が乗入れていること、また昭和三九年六月以降ジェット機が就航するようになり、現在就航している機種はジェット機にかぎつてみても、ダグラスDC八、コンベアー八八〇、ボーイング七〇七、七二七、七三七と多種に及び、しかもこれら航空機が原告ら居住地域の上空を低空で飛行し本件空港に離着陸していること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2次に本件空港に乗入れている航空機の変遷について検討するに、〈証拠〉を総合すれば、昭和三三年三月の全面返還当時における就航機種はダグラスDC三(三〇人乗り)、同DC四(六九人乗り)等の国内線用双発プロペラ機のみであつたが、国際空港に指定されたこともない、昭和三八年頃までに、同内、国外航空会社を通じてダグラスDCB(九五人乗り)、同DC七C(九九人乗り)、バイカウント(六九人乗り)等の四発プロペラ機が就航するようになつたこと、さらにジェット機化にともなつて昭和三九年にはコンベアー八八〇(一二四人乗り四発ジェット機)およびボーイング七二七―一〇〇(一二八人乗り、三発ジェット機)が就航したのを初め、その後ダグラスDC八(一七六人乗り、四発ジット機)、ボーイング七二七―二〇〇(一七八人乗り三発ジェッ機)、同七三七(一一五人乗り、双発ジェット機)、ダグラスDC九(九〇人乗り、三発ジェット機)、ボーイング二〇(一六七人乗り、四発ジェット機)、同七〇七(一八九人乗り、四発ジェット機)等が相次いで就航し、昭和四五年にはダグラスDC八―六一(二三四人乗り四発ジェット機)も就航するようになつたこと、以上の如く本件空港の乗入れ機種は次第に多様化、大型化して来たことが認められる。

3しかして、別紙三大阪国際空港年間離着陸状況一覧表から看取されるように、本件空港に離着陸する航空機の機数は昭和三九年から昭和四六年までは毎年一〇ないし二〇パーセント程度づつ増加し、B滑走路の供用が開始された昭和四五年度は昭和三九年度の二〇七パーセント、昭和四七年度は同じく二一〇パーセントとなつていること、また総機数中ジェット機の占める比率も昭和三九年度は僅か2.1パーセントであつたものが昭和四〇年度には15.8パーセントと飛躍的に増大し、昭和四六年度以降は五〇パーセントを超え、昭和四七年度には58.9パーセントに至つていることが明らかであつて、前記の機種の大型化、多様化と相まつて、機数の増加、ことにジェット機の逐年の増加の傾向が顕著である。右に認定したのは年間における離着陸総機数であるから、ここで昭和四〇年以降における離着陸状況の推移を一日の時間帯に見ると、〈証拠〉を綜合すればその状況は別紙五大阪国際空港時間帯別離着陸状況一覧表記載のとおりであつて、これによれば、一日の離着陸合計機数は、昭和四〇年七月当時は一八八機(うちジェット機三〇機)、昭和四二年一〇月当時は二六四機(一一四機)、昭和四四年三月当時は二九二機(一二四機)、同年八月当時は三三六機(一三八機)、昭和四五年三月当時は三六七機(一六五機)、昭和四五年八月当時は四一五機(二一四機)、昭和四七年四月当時は四一八機(二四八機)と増加しているのである。

4更に、同表を基礎にして離着陸回数の平均間隔を見ると、昭和四〇年七月当時には日中(七時から一九時まで)は四分五六秒(ジェット機は三二分四四秒)ごと、夜間(一九時から二二時まで)は六分一三秒(二二分三〇秒)ごとに、昭和四二年一〇月当時には日中は三分三三秒(八分一七秒)ごと、夜間は三分四五秒(六分五五秒)ごとに、昭和四四年三月当時には日中は三分一〇秒(八分五秒)ごと、夜間は三分三四秒(五分三八秒)ごとに、昭和四四年八月当時には日中は二分五〇秒(六分五五秒)ごと、夜間は三分三秒(五分四九秒)ごとに、昭和四五年三月当時には日中は二分二八秒(五分五七秒)ごと、夜間は三分六秒、(四分三〇秒)ごとに、昭和四五年八月当時は日中は二分一一秒(四分二三秒)ごと、夜間は二分三九秒(三分五五秒)ごとに、昭和四七年四月当時には日中は二分(三分三一秒)ごと、夜間は三分三六秒(四分五秒)ごとに、離着陸を繰返していることとなり、このように日常生活が営まれる重要な時間帯に限つても、離着陸の平均間隔が日中において五分弱から二分(ジェット機は三三分弱から三分半)に、夜間において六分強から三分半(ジェット機は二二分半から四分強)にと漸次短くなつてきていることが明らかである。

ここで、角度を変えて離着陸の最も激しい時間帯とその平均間隔について検討すると、〈証拠〉によれば、昭和四三年七月三〇日には二〇時から二一時までの離着陸機二〇機(うちジェット機一〇機)で三分(六分)ごと、昭和四五年五月二六日には一七時から一八時までの離着陸機三七機(二〇機)で一分三七秒(三分)ごと、同年八月当時には一七時から一八時までの離着陸機三六機(二一機)で一分四〇秒(二分五一秒)ごと、離着陸別に見ると七時から八時までの離着陸機一八機(七機)で三分二〇秒(八分三四秒)ごと、一七時から一八時までの着陸機二〇機(一三機)で三分(四分三六秒)ごと、昭和四六年五月当時には一〇時から一一時までの離着陸機三七機(二三機)で一分三七秒(二分三六秒)ごと、昭和四六年一二月当時には一七時から一八時までの離着陸機三五機(二四機)で一分四三秒(二分三〇秒)ごと、離着陸別に見ると七時から八時までの離陸機二一機(九機)で二分五一秒(六分四〇秒)ごと(ジェット機のみについていうと一七時から一八時までの離陸機一一機で五分二七秒ごと)、一四時から一五時までの着陸機二〇機(一二機)で三分(五分)ごと(ジェット機のみについていうと一七時から一八時までの着陸機一三機で四分三六秒ごと)、昭和四七年三月当時には一〇時から一一時までの離着陸機三四機(二〇機)で一分四六秒(三分)ごと、離着陸別に見ると一三時から一四時までのの離陸機二一機(九機)で二分五一秒(六分四〇秒)ごと、一九時から二〇時までの着陸機二〇機(一〇機)で三分(六分)ごと(ジェット機のみについていうと一〇時から一一時までの着陸機一一機で五分二七秒ごと)という結果になるのであつて、最多離着陸の時間帯はダイヤ改正等の関係もあり時期によつて異動するけれども、東京や大阪における国電のラッシュアワーに匹敵する程の頻繁な離着陸が繰返されている。

5最後に二二時から翌朝七時までの深夜便について見るに、別紙五の時間帯別離着陸状況一覧表記載のごとく、その機数は他の時間帯に比べて少なく、また昭和四〇年七月当時の離着陸機一三機(プロペラ機のみ)から昭和四四年八月当時の二三機(うちジェット機三機)と漸増したものの、その後漸減し、昭和四七年四月当時の離着陸機は八機(プロペラ機のみ)であることが明らかであり、〈証拠〉によれば、現在運航されている右時間帯の航空機はいずれもYS―一一による郵便専用機のみであつて、着陸機は一時台が三機と三時台が一機、離陸機が二二時台が一機と二時台が三機であることが認められる。

二  航空機騒音について

そこで本件空港に離着陸する航空機騒音が原告ら居住地域に暴露する騒音量について検討する。

1航空機の飛行経路と原告らへの騒音の到達

〈証拠〉を総合すれば、本件空港においては年間を通じて全航空機の約九六パーセントが風向の関係により北一三五度一一分四八秒東の方向(以下川西側という。)に向けて離着陸すること、そして着陸機は本件空港の南東約一三キロの地点にある城東ポイントを通過後、降下角度三度で徐々に降下し、A滑走路に着陸する場合は、豊島小学校の西側でかつ利倉東地区、西町、寿町の東側を通つて走井、勝部両地区の上空を通過し、B滑走路に着陸する場合は、西町、寿町、利倉東、利倉の各地区のほぼ上空を通過すること、離陸機は、B滑走路を使用する場合には、走井地区に隣接し平行誘導路の先端から三二〇メートルの地点に存する第二停止線で待機後、離陸の許可を得て、走井、勝部両地区に隣接したB誘導路および待機場を滑走してB滑走路へ進入し徐々に加速してB滑走路東南端より約三八〇メートルの地点で出力を全開して発進を始めること、なおAおよび滑走路を離陸した航空機は離陸後本件空港の北西に存する軍行橋上空を通り、ゆるやかに左旋回しながら高芝、むつみ地区、摂代地区の上空を順次通過し、空港の北西約2.8キロメートルの地点に存する大阪航空無線標識所(QS)上空まで飛行しそこから大きく左へ旋回した後、東京等の東行き機は伊丹市崑陽池付近上空を通過しながらさらに旋回を続け豊中側原告居住地域の上空を通過し、福岡等西行き機は前記QS上空通過後、武庫川をこえないようにして南方へ飛行すること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2本件空港周辺における騒音量の測定結果

そこで本件空港周辺における航空機騒音の測定結果について検討する。

(一) 運輸省が川西市立久代小学校に設置した騒音測定塔における測定結果によれば、八〇ホン以上の発生回数が一日七〇回にも達し、最高記録音に至つては一〇七ホンにも及んでいることは当事者間に争いがない。

(二) 〈証拠〉によれば、本件空港に離着陸する航空機の騒音の測定結果は別紙六騒音測定表第一表ないし第一五表(第九表は一、二)記載のとおりである。

3原告ら居住地域と測定地点との位置関係

次に前記各測定地点と原告ら居住地域との位置関係について検討するに、〈証拠〉を総合すれば、前記各測定地点と原告ら居住地域との地理的関係は次のとおりであることが認められる。

(一) 高芝、むつみ地区

(1) 高芝公民館は同地区の南部(別紙図面(一)のA点)に位置し、同地区の原告らは同館より北方約一八〇メートル、南方約三〇メートル、東方約一五〇メートル、西方約三〇メートルの範囲内に居住している。

(2) 大機金型は同地区の南方に近接した地点(同図面のB点)に位置し、同地区の原告らは同地点より北方約五ないし二四〇メートル、東方約二五〇メートル、西方約八〇メートルの範囲内に居住している。

(3) 久代一丁目は同地区の西端よりさらに西方約一五〇メートルの地点に存する。

(4) 南保育所跡は同地区の南西端に接続した地点(同図面のC点)に位置している。

(5) 東久代会館は本件空港A滑走路末端より北方約一、六〇〇メートルの地点で同地区の北北東方(同図面のD点)に存し、同地区の原告らは同館より南方約六〇ないし三〇〇メートル、東方〇ないし約二四〇メートルの範囲内に居住している。

(6) 高木勇宅は久代新田に存し、同地区の東方でかつ飛行経路よりもかなり東に外れた地点(同図面のE点)に位置している。

(二) 摂代地区

(1) 摂代公民館は摂代地区の西端(同図面のF点)に存し、同地区の原告らは同館より北へ約一三〇メートル、南へ約一五〇メートル、東へ〇ないし約二四〇メートルの範囲内に居住している。

(2) 摂代広場は原告十七已之助宅の北西に隣接した空地で摂代地区の中心部よりやや東南の地点(同図面のG点)に位置する。

(三) 高芝、むつみ、摂代地区周辺

(1) 大阪機工は、高芝、むつみ地区の西南西、摂代地区の東方(同図面のH点)に存し、同所より東方約二〇〇ないし四〇〇メートル、北方五ないし二四〇メートルの範囲内に高芝むつみ地区の原告らが居住し、また同所より西方約五〇ないし三〇〇メートル、北方約一七〇メートル、南方約九〇メートルの範囲内に摂代地区の原告らが居住している。

(2) 久代小学校は高芝むつみ地区の北方一、〇〇〇メートル、摂代地区の西北西約四五〇メートルの地点(同図面のI点)に南中学校は摂代地区の北西約八〇〇メートルの地点(同図面のJ点)に存する。

(四) 走井地区

(1) 測定地点としてA滑走路末端南東五〇〇メートルと記載されている地点は同図面のK点で、走井地区の原告らは同点より南東方約二〇〇メートルの地点に居住している。

(2) 同じく走井と記載されている地点は原告らが居住する国産パッキングの寮(同図面のL点)より相当東方の地点に存すると推測されるが、正確な地点は明らかではない。

(五) 勝部地区

(1) 勝部センターはA滑走路末端より東南方一、四〇〇メートルの地点で勝部地区内の東南部(同図面のM点)にあり、同地区の原告らは同センターより南方約一五〇メートル、北方約二七〇メートル、東方約五〇メートル、西方約二二〇メートルの範囲内に居住している。

(2) 無住寺はA滑走路末端より約一二五〇メートルの地点で勝部地区のほぼ中央部(同図面のN点)にあり、同地区の原告らは同寺より北方約一四〇メートル、南方約二七〇メートル、東方約一七〇メートル、西方約一二〇メートルの範囲内に居住している。

(3) 豊中市清掃部第一作業課(作業課)はA滑走路末端の南東方一一〇〇メートルの地点で勝部地区の北西端(同図面のO点)に存し、同地区の原告らは同課より南東方約七〇ないし四〇〇メートルの範囲内に居住している。

(4) 原告喜村謙一宅は勝部地区内でA滑走路末端より約一三〇〇メートルの地点でかつ空港周辺に存する防音壁より約六五メートルの地点(同図面のP点)に存し、A滑走路着陸コースの直下にある。

(六) 利倉地区

(1) 利倉センターは利倉地区の北東端(同図面のQ点)にありり、同地区の原告らは同センターより南方へ約二〇〇メートル、東方へ約一五〇メートル、西方へ約五〇メートルの範囲内に居住している。

(2) 永照寺はA滑走路末端より約二五二〇メートルの地点で利倉地区の中心部よりやや西方(同図面のR点)に位置しており、同地区の原告らは同寺と利倉センターにはさまれた地域に居住している。従つて同地区の原告ら宅における騒音量は永照寺のそれを上廻ることは明白である。

(七) 利倉東地区

(1) 大阪商業高校は利倉東町の北東端(同図面のS点)にあり、利倉東地区の原告らは同校より南方および西方へ各二〇〇メートルの範囲内に居住している。なお同校より西方約四五〇ないし六五〇メートルの地点に利倉地区の原告らが、南方約二八〇ないし三八〇メートルの地点に西町の原告らが、南南東約四五〇ないし七五〇メートルの地点に寿町三丁目の原告らが、それぞれ居住している。

(2) 豊島保育所はA滑走路末端より南東方約三一〇〇メートルの地点で利倉東地区の東方(同図面のT点)に位置し同地区の原告らは同保育所より西方約二七〇ないし四五〇メートルの地域に居住している。

(3) 住友生命研修所(以下住友生命という。)はA滑起路末端より南東方三〇〇〇メートルの地点で大阪商業の東側に隣接(同図面のU点)している。

(4) 南豊島農業協同組合(以下南豊島農協という。)はA滑走路末端より約二七五〇メートル、B滑走路末端より約一二〇〇メートル南東方に位置し、A、B両滑走路着陸コースのほぼ中間(同図面のV点)に存し、同地区の原告らは同組合より北方約一二〇メートル、南方約二七〇メートル、東方約一二〇メートル、西方約七〇メートルの範囲内に居住している。

(八) 西町、寿町

(1) 広木戸橋はA滑走路末端より東南方約三二〇〇メートル、B滑走路末端より同じく約一六〇〇メートルの地点(同図面のW点)に位置し、西町の原告らは同橋より東方約五〇ないし一〇〇メートル、寿町の原告らは同橋より東方約二五〇ないし六〇〇メートルの範囲内に居住している。

(2) 南郵便局は西町と寿町三丁目の中央(同図面のX点)に位置している。

(九) その他

(1) 原田小学校はA滑走路末端より南東方約一八〇〇メートル、勝部地区の東方約五〇〇メートルの地点(同図面のY点)に存する。

(2) 豊島小学校はA滑走路末端より南東方約三五五〇メートル、B滑走路末端より南東方約二〇〇〇メートル、大阪商業より南東約四五〇メートルの地点でA滑走路着陸コースのほぼ直下(同図面のZ点)に位置する。

4原告らの居住地域における騒音量

〈証拠〉によれば、同一地点における同一機種の騒音の測定値と雖も測定時における航空機の飛行経路、高度、機体重量、風向風速、温度、湿度等の諸条件によつて異ること、従つて当該地点における標準的な騒音レベルを求めるためには可及的多数の地点における多数の実測結果に基づき、前記条件を考慮したうえ、統計的処理を行う必要のあることが認められる。そこで〈証拠〉を総合して認められる昭和四一年三月当時における機種別騒音レベルコンター、昭和四五年一一月当時における機種別、離着陸別騒音レベルコンターおよび右実測データーと同年一〇月二七、二八両日の各離着陸機数から求められたNNI値コンター、昭和四〇年七月および昭和四七年四月当時の各定期便機数に基づくWECPNLコンター、昭和四五年八月当時の実測結果に継続時間、特異音補正を加えて求められた実測ECPNLコンターおよびアメリカ連邦航空局の機種別基礎騒音データーと昭和四五年八月当時における離着陸機数から求められた予測ECPNLコンターならびに右機種別基礎騒音データーを基礎とし、これに前記認定にかかる各測定値および原告ら居住地域の位置関係等を総合して判断すると、当時就航していた主要航空機の原告ら居住地区における機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の騒音継続時間ならびにNNI値およびWECPNL値は概ね次のとおりであることが推認できる。

(一) 高芝、むつみ、摂代地区

(1) B滑走路供用開始前

(イ) 機種別騒音レベル

(a) 大型ジェット機(コンベア八八〇、ボーイング七〇七を指す。ただしB滑走路供用開始後においてはダグラスDC八を含む。以下同じ。)

一〇〇ないし一〇五ホン

(b) 中小ジェット機(ボーイング七二七、同七三七を指す。以下同じ。)

九〇ないし一〇〇ホン

(c) 四発プロペラ機(ダグラスDC六B等を指す。以下同じ。)

九五ないし一〇〇ホン

(d) 双発プロペラ機(YS一一、F二七を指す。以下同じ。)

八〇ないし九〇ホン

(ロ) WECPNL(昭和四〇年七月当時) 八〇ないし九〇

(ハ) NNI 五五ないし六五

(2) B滑走路供用開始後

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

一〇〇ないし一〇五ホン 約四〇秒

(b) 中小ジェット機

九五ないし一〇〇ホン 約三〇秒

(c) 双発プロペラ機

八〇ないし九〇ホン 約一〇秒

(ロ) WECPNL 九〇ないし九五

(ハ) NNI 六〇ないし六五

(ニ) 走井、勝部地区

(1) B滑走路供用開始前

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

一〇〇ないし一一〇ホン 約一五秒

(b) 中小型ジェット機

九〇ないし一〇五ホン 約一五秒

(c) 四発プロペラ機

九〇ないし一〇〇ホン 約一三秒

(d) 双発プロペラ機

八〇ないし九五ホン 約一三秒

(ロ) WECPNL(昭和四〇年七月当時) 八五ないし九五

(ハ) NNI 五〇ないし六五

(2) B滑走路供用開始後

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

九〇ないし一〇〇ホン 約一五秒

(b) 中小型ジェット機

八五ないし一〇〇ホン 約一五秒

(c) 双発プロペラ機

八〇ないし九五ホン 約一三秒

(ロ) WECPNL 八五ないし九〇

(ハ) NNI 五〇ないし六五

(三) 利倉地区

(1) B滑走路供用開始前

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

七五ないし八五ホン 約一五秒

(b) 中小型ジェット機

七五ないし八〇ホン 約一五秒

(c) 四発プロペラ機

七五ないし八五ホン 約三秒

(d) 双発プロペラ機

七〇ないし七五ホン 約三秒

(ロ) WECPNL(昭和四〇年七月当時) 七〇ないし七五

(ハ) NNI 四五ないし五〇

(2) B滑走路供用開始後

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

九〇ないし一〇〇ホン 約一五秒

(b) 中小型ジェット機

八五ないし九五ホン 約一〇秒

(c) 双発プロペラ機

七〇ないし八〇ホン 約五秒

(ロ) WECPNL 八五ないし九五

(ハ) NNI 五五ないし六五

(四) 利倉東、西町寿町地区

(1) B滑走路併用開始前

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

九〇ないし一〇〇ホン 約一五秒

(b) 中小型ジェット機

八〇ないし九五ホン 約一五秒

(c) 四発プロペラ機

八〇ないし九〇ホン 約一三秒

(d) 双発プロペラ機

七五ないし八五ホン 約一〇秒

(ロ) WECPNL(昭和四〇年七月当時) 七五ないし八〇

(ハ) NNI 四五ないし五〇

(2) B滑走路供用開始後

(イ) 機種別騒音レベルおよび七〇ホン以上の継続時間

(a) 大型ジェット機

一〇〇ないし一一〇ホン 約二五秒

(b) 中小型ジェット機

九〇ないし一〇五ホン 約二〇秒

(c) 双発プロペラ機

八〇ないし九〇ホン 約一五秒

(ロ) WECPNL 九五以上

(ハ) NNI 五五ないし六五

5屋内における騒音量

原告ら居住地域における屋外の騒音レベル等はさきに認定したとおりであるが、〈証拠〉によれば、建造物の遮音度は窓を開けた場合で概ね一〇ホン、窓を閉めた場合で概ね二〇ホン程度であることが認められる。ところで遮音効果は建造物の構造により当然異なり、木造家屋のそれは鉄筋コンクリート造のそれに比較して遮音度が小さいことも容易に推認しうるところ、検証の結果(第一、二回)によれば、原告ら居住地域における建物はその一部を除いて殆んどが木造であり、また相当以前に建築されたものが多いことが認められるから原告ら、居住地域の屋内における騒音レベルは窓開放の有無に応じ前記認定の騒音レベルより約一〇ないし二〇ホンを減じたものと認めるべきである。

6航空機騒音の特異性

〈証拠〉によれば、航空機騒音は次のような特異な性質を特つことが認められる。すなわち、第一に航空機騒音のパワーレベルは他の音源と比較して極めて大きく、現在日常生活に関係あるものでジェット機以上の騒音を発するものはない。第二にジェット機の騒音は高周波成分を含み金属性の音質を有し、概ね中心周波数五〇〇ないし二〇〇〇ヘルツのレベルが高くなり、プロペラ機のそれは比較的低周波成分が多く中心周波数二五〇ないし一〇〇〇ヘルツにゆるやかなピークを有する山型の周波数構成をとつているため、高い周波数の音に対して感度の良い人間の耳にはジェット機騒音はプロペラ機のそれに比べよりうるさく感じられる。第三に音源が空中に存するため騒音の及ぶ範囲が広大であり、かつ遮音が困難である。第四に航空機騒音は発生が間欠的であり、ときに衝撃的である。

7騒音に関する環境基準、規制基準等との比較

(一) 公害対策基本法に基づく環境基準

同法九条に基づき定められた騒音に係る環境基準(昭和四六年五月二五日閣議決定)は、航空機騒音には適用されないが、これによると、A地域(主として住居の用に供される地域)については昼間五〇ホン以下、朝夕四五ホン以下、夜間四〇ホン以下(道路に面する地域では昼間五五または六〇ホン以下、朝夕五〇または五五ホン以下、夜間四五または五〇ホン以下)、B地域(相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域)については昼間六〇ホン以下、朝夕五五ホン以下、夜間五〇ホン以下(道路に面する地域では昼間六五ホン以下、朝夕六〇または六五ホン以下、夜間五五または六〇ホン以下)と定められている。

また、同法九条に基づき定められた航空機騒音に係る環境基準(昭和四八年一二月二七日環境庁告示第一五四号)によれば、Ⅰ地域(専ら住居の用に供される地域)については七〇WECPNL以下Ⅱ地域(Ⅰ以外の地域であつて通常の生活を保全する必要がある地域)については七五WECPNL以下と定められており、この基準は本件空港の如き第一種空港にあつては一〇年をこえる期間内に可及的速やかに達成されるものとし、中間的に、(イ)五年以内に、八五WECPNL未満とすること又は八五WECPNL以上の地域において屋内で六五WECPNL以下とすること、(ロ)一〇年以内に、七五WECPNLとすること又は七五WECPNL以上の地域において屋内で六〇WECPNL以下とすることを改善目標として、この目標を達成しつつ段階的に環境基準が達成されるようにするものとし、なお航空機騒音の防止のための施策を総合的に講じても、前記一〇年の期間で環境基準を達成することが困難と考えられる地域においては、当該地域に引続き居住を希望する者に対し家屋の防音工事等を行うことにより環境基準が達成された場合と同等の屋内環境が保持されるようにすると共に極力環境基準の速やかな達成を期するものとされている。

なお、〈証拠〉によれば、環境庁長官は右の航空機騒音に係る環境基準の示告に先立つて、昭和四六年一二月二八日運輸大臣に対し、環境保全上緊急を要する航空機騒音対策についての勧告をなし、本件空港周辺地域における航空機騒音に係る環境上の条件についての当面の指針等を含め、指針達成のための方策の実現に必要な措置を速かに講ずるよう求めたが、右指針のひとつとして、航空機騒音が八五WECPNL以上に相当する地域については、これにより日常生活が著しくそこなわれることのないようにすることを定め、その達成を図るために右地域において防音工事の助成、移転の推進等の騒音障害防止措置を講ずることを求めていることが認められるのであつて、右勧告も環境基準と同程度に評価すべきものである。

(二) 騒音規制法に基づく規制基準

同法は工場、事業場における事業活動や建設工事に伴つて発生する騒音を規制すると共に、自動車騒音に係る許容限度を定めたものであつて、航空機騒音は対象外であるが、同法四条一項、二項に基づき定められた特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準(昭和四三年一一月二七日厚生省・農林省・通商産業省・運輸省告示一号)によれば、第二種区域(住居の用に供されているため、静穏の保持を必要とする区域)については昼間五〇ホン以上六〇ホン以下、朝夕四五ホン以上五〇ホン以下、夜間四〇ホン以上五〇ホン以下、第三種区域(住居の用にあわせて商業、工業等の用に供されている区域であつて、その区域内の住民が生活環境を保全するため、騒音の発生を防止する必要がある区域)については昼間六〇ホン以上六五ホン以下、朝夕五五ホン以上六五ホン以下、夜間五〇ホン以上五五ホン以下(ただし、学校、保育所、病院等の周辺にあつては都道府県知事が定める値以下当該値から五ホンを減じた値以上)と定められており、右基準に従つて、大阪府においては昭和四六年一二年二四日大阪府告示一八一四号、一八一五号により、兵庫県においては昭和四四年四月三〇日兵庫県告示四四八号の三、四により、規制地域の指定と規制基準の設定がなされている。

また、同法一七条一項に基づく指定区域内における自動車騒音の限度を定める命令(昭和四六年六月二三日総理府・厚生省令三号)によると、第二種区域については車線数に応じて昼間六〇ないし七五ホン、朝夕五五ないし七〇ホン、夜間五〇ないし六〇ホン、第三種区域については車線数に応じて昼間七〇ないし八〇ホン、朝夕六五ないし七五ホン、夜間六〇ないし六五ホンと定められ、右区域及び時間の区分については、大阪府においては昭和四七年一〇月二日大阪府告示一九三号によつて定められている。

(三) 公害防止条例に基づく規制基準

大阪府公害防止条例二二条一項に基づく工場等に関する騒音の規制基準を定めた同条例施行規則七条(別表第七)は、航空機騒音には適用しないものとされているが、これによると、第二種区域(一般の住居地域等)については昼間六〇ホン、朝夕五〇ホン、夜間四五ホン、第三種区域(商業、準工業地域等)については昼間六五ホン、朝夕六〇ホン、夜間五五ホンとされており、また同条例五四条一項に基づく道路交通法による措置要請をする場合の自動車騒音の限度を定めた同条例施行規則二三条二号(別表第一四)によると、第二種区域については車線数に応じて昼間六〇ないし七五ホン、朝夕五五ないし七〇ホン、夜間五〇ないし六〇ホン、第三種区域については車線数に応じて昼間七〇ないし八〇ホン、朝夕六五ないし七五ホン、夜間六〇ないし六五ホンとされている。

また、兵庫県公害防止条例九条一項に基づく工場等における騒音の規制基準を定めた昭和四七年四月一日兵庫県告示四八二号の一五(別表第七)によると、第二種区域については昼間六〇ホン、朝夕五〇ホン、夜間四五ホン、第三種区域については昼間六五ホン、朝夕六〇ホン、夜間五〇ホンと定められている。

(四) NNIについて

〈証拠〉によれば、イギリスにおいては法律により一九六六年以前に建築され、かつNNI五五以上の地域に存する建物については防音工事の補助を行うことが定められ、すでに実施されていることが認められる。

(五) そこで、これらの騒音に関する種々の環境基準、規制基準等と先に認定した原告ら居住地域における航空機の騒音レベルを比較検討する。

まず、原告ら居住地域においては、地域およびB滑走路供用開始の前後によつて高低はあるが、概ね大型ジェット機で九〇ないし一〇五ホン、中小型ジェット機で八五ないし一〇〇ホン、プロペラ機でも八〇ないし九〇ホンの騒音に暴露されていること、これをWECPNL値でいうと八五ないし九五にも達していることは前叙のとおりであつて、前記の環境基準(航空機騒音に係るものを除く。)、規制基準が航空機騒音には適用されないためにこれと同列で比較するのは適当でないとしても、前記の航空機の離着陸回数、時間、飛行経路、原告ら居住地域の類型(住居地域かこれに準ずる地域に該当する。)等を考慮するならば、どの航空機であつてもその騒音レベルは右の環境基準、規制基準における数値を大幅に上回つていることが明らかであるし、航空機に係る環境基準における数値をも遙かに上回つているのは勿論である。

なお、原告ら居住地域におけるNNI値はB滑走路供用開始前においては高芝、むつみ、摂代、走井、勝部の各地区で概ね五〇ないし六五、その余の地区で概ね四五ないし五〇、B滑走路供用開始後においては高芝、むつみ地区で概ね六〇ないし六五、その余の地区で概ね五五ないし六五であるから、前記(四)のイギリスにおける防音工事補助基準と比較すればB滑走路供用開始前でも殆んど大部分の地区が、同供用開始後においては全地区が補助対象地域にあたることになる。

三  排気ガス、ばい煙、悪臭について

〈証拠〉によると、走井、勝部両地区は本件空港に接している関係から本件空港に離着陸するジェット機の排出する大量の排気ガスの影響を受けることが特に多いことが認められるところ、〈証拠〉を総合すると、航空機の排気ガス中には一酸化炭素や窒素酸化物、タール、ばいじん、アルデヒド類および硫黄酸化物等多種多様の有害物質を含んでいることが認められる。

そこで勝部地区周辺の右排気ガスによる汚染度について検討するに、〈証拠〉によれば、慶応義塾大学工学部教授柳沢三郎氏は財団法人航空公害防止協会の委嘱を受け、昭和四五年一二月、昭和四六年四月、同年八月、昭和四七年六月の四回各三日間に亘り勝部地区を中心とする本件空港周辺において大気汚染の実態を調査したこと、ところが昭和四五年一二月の調査は全日本空輸株式会社の従業員がストライキにはいつたため三日間の調査期間のうち二日間は航空機の離着陸回数が平日の二分の一程度であり、また昭和四六年八月の調査は期間中殆んど勝部地区から本件空港に向つて東北東の風が吹き、なお最終日は台風二三号の影響で南行便が欠航し航空機の離着陸回数が平日の二分の一以下となつたため、いずれも適当な測定条件を備えていず調査期日としては相当でなかつたことが認められるので、以下昭和四七年六月の調査の結果を検討することにする。そこで〈証拠〉によると、柳沢氏は同年六月二四日から二六日までの三日間本件空港B滑走路に接する勝部地区を中心として一〇地点において窒素酸化物を、五地点において一酸化炭素を、二〇地点において悪臭物質をそれぞれ測定したところ、風向はすべて滑走路方向から勝部地区に向つて吹いていたにもかかわらず、二酸化窒素の総平均値は0.025PPM、各地点の平均値は0.017ないし0.033PPM、一時間値で0.004ないし0.064PPMであつて、空港内と勝部地区の濃度はほぼ同じであること、なおその濃度は一七時三〇分頃から急激に減少していること、ところで中央公害対策審議会大気部会専門委員会の提案値は年間を通して一時間値の二四時間平均値0.02PPM(ザルツマン係数0.72を用いて算出した数値。本測定では同係数0.5を用いて算出したためこれに換算すると右数値は0.029PPMとなる。)であるから、これと比較すると測定日によつては提案値を僅に越えることがありうるという程度であること、なお本件空港周辺における窒素酸化物の発生源としては自動車排気ガスやじん芥焼却炉等があり、航空機からの影響の程度は明らかでないこと、一酸化窒素の置は二酸化窒素のれそに比べ二分の一程度であり、その時間的傾向は概ね二酸化窒素と同様であること、また一酸化炭素の総平均値は1.6PPM、各地点の平均値は1.4ないし1.7PPM、一時間値は0.5ないし3.5PPMであつて、環境基準である年間を通じ八時間値二〇PPM、二四時間一〇PPMと比較して、一酸化炭素による汚染は低いものであり、その濃度は都市大気中の一酸化炭素濃度の一般的傾向の例にもれず一七時頃から減少していること、悪臭物質としてはアルデヒド類が検出されたが、瞬間的に濃度が上昇する場合を除いて臭気を感ずることはあり得ないのみか、アルヒデド類は他の炭化水素の成分の割合からみて自動車および航空機の双方がその原因となつていること、以上の事実が認められ、本件空港周辺における大気汚染度が特に高いものとはいい得ないことが明らかである。のみならず、甲第三九号証によれば大阪府公害室が昭和四五年一一月二七日から一二月一日までの五日間毎日午前九時三〇分から午後五時三〇分まで一時間毎に勝部地区およびB滑走路の南東端付近七か所において大気汚染状況を調査し、大阪市内における調査結果と比較したところ、窒素酸化物全体としては大阪市内とほぼ同程度の濃度を示し、一酸化炭素、二酸化炭素、浮遊紛じん等の量は大阪市内のそれに比べやや低い値を示していることが認められ、さらに甲第二一六号証の一、二によれば、大阪府公害室が昭和四六年六月二八日から七月二日までの五日間毎日午前九時三〇分から午後五時三〇分まで一時間毎に勝部地区およびB滑走路の南東端付近九か所において空港周辺の大気汚染状況等を調査したところ、一酸化炭素、浮遊紛じんは前回(昭和四五年度調査)と大差なく一般に低い値を示し、窒素酸化物および炭化水素も前回の結果と大差なかつたことが認められる。

以上要するに、勝部地区およびその周辺における一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素、浮遊紛じん等の濃度は大阪市内のそれに比べてやや低く、概ね環境基準に定められた数値または同提案値以下であることが明らかである。のみならず、〈証拠〉によれば、柳沢氏の測定当時における本件空港に離着陸する航空機の離着陸回数は一七時頃以降少しも減少していないことが明らかであるにもかかわらず、前叙のごとく有害物質の濃度のみが一七時ないし一七時三〇分頃から減少ないし激減していることおよび悪臭物質については炭化水素の成分比からみてガソリンと航空機燃料の両方が原因しているものと認められること等に照すと、柳沢氏も指摘されるごとく、勝部地区およびその周辺における大気汚染はひとり航空機排気ガスのみによるものではなく、同地区の東方を南北に通ずる阪神高速道路大阪、池田線を通行する自動車および右地区周辺に存する工場等の排気ガスに起因する可能性が極めて強いといわざるを得ないものである。原告寺野清次郎本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他に原告ら主張事実を認めるにたる証拠はない。

四航空機騒音による振動について

〈証拠〉を総合すれば、原告ら居住地域ことに高芝、むつみ、勝部、走井の各地区においては主にジェット機の飛来するごとにガラス窓が震え建物によつては建物全体が振動することもあることが認められる。そして甲第三七号証によると大阪府立大学工学部教授中川憲治氏が昭和四三年一一月一日から昭和四四年二月一五日にかけて後記の原告ら居住地域において航空機振動の建造物に及ぼす影響につき調査したところ、航空機騒音が地上に達したときの音圧が直接振動力として働き、地面と家屋全体が殆んど一体となつて垂直に振動していること、振動の加速度は航空機の接近と共に増加し、頭上を通過して数秒後に最大値に達し、振動加速度の対数値はほぼ騒音レベルに比例すること、振動の周波数が非常に高くかつ広帯域にわたつて分布していること原告らの居住家屋やその周辺における建物の加速度は高芝、むつみ、摂代の各地区においては概ね三〇ないし四〇ガル、最高一一五ガル、勝部地区において概ね三〇ないし四〇ガル、最高一三〇ガルにも達することが認められ、従つて各地区においてジェット機が飛来した場合に生ずる振動はこれを無視することはできない。

第三  被害

一  身体的被害

1難聴および耳鳴について

〈証拠〉によれば、原告寺野清次郎、同米田久野、同田辺忠雄、同細川勝巳、同釜谷富太郎らをはじめ多数の原告およびその家族らは慢性的な耳鳴に悩まされ、ことにジェット機の飛来時にはその程度が増すこと、また原告清田エイ、同高田キミら多数の原告およびその家族らは昭和四二、三年頃から難聴気味になり、以来右症状は徐々に進行していること、ことに原告丸山良明、同久保洋子ら六名の児童生徒は若年であるにもかかわらず同様の疾患に陥り通院その他の加療を余儀なくされていることをそれぞれ訴えていることが認められる。

かような訴えは、原告らのみに止まらず、本件空港周辺の多数の住民からもアンケート調査の結果を通じてなされているのであり、例えば(イ)〈証拠〉によれば本件空港の周辺に所在する伊丹、川西、豊中市等八市により組織された大阪国際空港騒音対策協議会の委託を受け、熊谷三郎氏ら騒音問題の研究者により構成される関西都市騒音対策委員会が昭和四〇年一〇月空港周辺八市二七か所において住民二、七〇〇人を対象に調査したところ、騒音により耳鳴を訴える者は川西市高木勇宅周辺(高芝、むつみ地区周辺)で一三パーセント、同市川西南中学校周辺(摂代地区周辺)で九パーセント、豊中市原田小学校周辺(勝部地区周辺)で七パーセントであり、耳の痛みを訴えるものは高木勇宅周辺で二二パーセント、南中学校周辺で一一パーセント、原田小学校周辺で二パーセントであつたこと、(ロ)〈証拠〉によれば、川西市南部地区に属する一三自治会五、〇〇〇世帯により構成される川西市南部地区飛行場対策協議会が昭和四一年一〇月、一一月に高芝むつみ、摂代地区を含む同市久代地区、加茂地区の住民二、八〇〇世帯(回答数二七四二世帯)を対象に調査したところ、各人が被害として一項目のみを挙げることになつていたにもかかわらず、ラジオテレビの視聴障害や神経過敏などの被害に先んじて難聴、耳鳴を訴えている者が三二人にのぼつたこと、(ハ)〈証拠〉によれば、前記大阪国際空港騒音対策協議会が昭和四二年一一月に空港周辺八市の住民一、二〇〇名(回答数九九三名)を対象に調査したところ、耳鳴を訴える者は勝部地区で14.3パーセント、加茂、久代、久代新田の各地区で10.8パーセント、難聴を訴える者は勝部地区で3.6パーセント、加茂、久代、久代新田の各地区で6.8パーセントであつたこと、(ニ)〈証拠〉によれば、前記川西市南部地区飛行場対策協議会が昭和四二年一二月に同市久代、久代新田、加茂の一五自治会の住民約三、九〇〇世帯(回答数三、二五〇世帯)を対象として調査したところ、被害項目中一項目のみを挙げることになつていたにもかかわらず、難聴を訴える者が一、二六四人、10.9パーセントにのぼつたこと、(ホ)〈証拠〉によれば、兵庫県企画部が昭和四三年一一月に川西市および伊丹市のうち九五ホン以上の騒音を蒙る地区に居住する全世帯二、二〇〇世帯(回答数一、九七七世帯)を対象に調査したところ、騒音の心身に与える影響として、難聴を第一順位にあげた者は男子3.3パーセント、女子8.9パーセント(実数合計七〇名)であり、耳鳴を第一順位にあげた者は男子2.2パーセント、女子1.8パーセント(実数合計四三名であつたこと、(ヘ)〈証拠〉によれば、内藤儁教授らが昭和四三年一二月に川西市東久代の住民四八〇世帯一、〇一一名を対象に調査したところ、難聴を訴える者は二九四名(29.1パーセント)であり、耳鳴を訴える者は三一六名(31.3パーセント)であつたこと、(ト)〈証拠〉によれば、大阪府衛生部が昭和四七年四月に勝部地区住民九六七名を対象にして調査したところ耳鳴を訴える者は空港に最も近い地区では一五才から三九才で50.5パーセント、四〇才以上で57.5パーセント、次に近い地区では一五才から三九才で50.5パーセント、四〇才以上で41.8パーセント、空港から最も離れた地区では一五才から三九才で51.0パーセント、四〇才以上で46.2パーセントにのぼつたこと、(チ)〈証拠〉によれば、伊丹市空港対策部は昭和四六年一一月伊丹市住民を対象として調査を行い、その結果をWECPNLの数値が同一の地区別に集計したところ、被害項目中一項目のみをあげる調査であるにかかわらず、WECPNL九五以上の地区では一時的難聴を訴える者が16.5パーセント、(四四名)、耳鳴を訴える者が9.7パーセント(二六名)にのぼつたこと、(り)〈証拠〉によれば、川西市教育委員会が同市の八小学校の児童を対象として聴力検査を行つたところ、問診だけで判断されているので必ずしも正確なものとはいえないが久代小学校では一、一一〇人中二三人、加茂小学校では一、五六〇人中一八人の難聴児童のいることが判明し、また学校別にみればジェット機の離陸コースから離れるにつれ難聴児の数は減少し、騒音の影響が全くない東谷小学校では久代小学校の三分の一以下であるとの結果を得たこと、以上の事実が認められる。

そこで次に騒音の聴覚に与える障害に関する専門の科学者の実験結果やそれに基づく意見について検討するに〈証拠〉を総合すると、激しい騒音に暴された場合には、身体特に耳になんらの生物学的欠陥のない場合でも聴覚の一時閾的値移動(テンポラリー・スレッショオールド・シフト、以下TTSまたは一時的難聴という。)に陥り、これが繰返されると回復不能な永久的難聴(パーマネント・スレッショオールド・シフト、以下PTSまたは永久的難聴という。)を生ずるに至ることが明らかにされており、アメリカの国立科学アカデミー聴覚・生物音響学・生物力学研究委員会(CHABA)およびスタンフォード大学の心理学の教授であるクライターは、一定の騒音を八時間暴露して二分間休んだときのTTSがその騒音に常習的に一〇年以上暴露された者のPTSの値にほぼ一致するという仮説を提唱していること、なお騒音性難聴の特徴は特に周波数四〇〇〇ヘルツ付近の音に対する聴力が強く障害を受けるのが特色で、より高い周波数付近の音に対する聴力が衰退する老人性難聴と区別されること、また騒音性難聴の原因は内耳の毛細胞の損傷によるものであつて、その損傷が大きいと回復不能になり、永久的難聴になると解されていることが認められる。また〈証拠〉によれば、騒音影響調査研究会は航空機騒音によるTTSについてと題する研究において、主として四キロヘルツにおけるTTSを調査するため、予め録音したコンベアー八八〇およびダクラスDC八の騒音を室内騒音レベル三五デシベル以下の防音無音響室内においてピークレベル八九、九二、九五、一〇〇、一〇五、一〇七、一一〇デシベル(A)で再現し、二分ないし四分に一回の割合で約七〇秒間(ピークレベルから約三五デシベル(A)落ちるまでの時間)づつ聴力正常な男子学生(二〇歳から二四歳)五、六名に暴露したところ、ピークレベル八九デシベル(A)の騒音を二分に一回の割合で暴露した場合八四回(約一六八分)で、九二デシベル(A)の騒音を同様の割合で暴露した場合は七八回(約一五六分)でいずれも五デシベルのTTSが生じ、九五デシベル(A)の騒音を同様の割合で暴露した場合三〇回(約六〇分)で五デシベル(A)、一九〇回(約三八〇分)で一〇デシベル(A)のTTSが生じること、また一〇〇デシベル(A)の騒音を同様の割合で暴露した場合一一回で五デシベル(A)、三四回で一〇デシベル(A)のTTSが生じること、また一〇五デシベル(A)の騒音を二分に一回の割合で暴露した場合二四回(約五〇分)で五デシベル(A)のTTSが、四八回(約一〇〇分)で一〇デシベル(A)のTTSが生じ四分に一回の割合で暴露した場合二八回(約一一〇分)で五デシベル(A)のTTSが四五回(約一八〇分)で一〇デシベル(A)のTTSが生じること、一〇七デシベル(A)の騒音を二分に一回の割合で暴露した場合八回で五デシベル(A)、二四回で一〇デシベル(A)のTTSが生じ、四分に一回の割合で暴露した場合一二回で五デシベル(A)、二四回で一〇デシベル(A)のTTSが生じること、一一〇デシベル(A)の騒音を二分に一回の割合で暴露した場合四回で五デシベル(A)、八回で一〇デシベル(A)のTTSを生じ、四分に一回の割合で暴露した場合二回で五テシベル(A)一四回で一〇デシベル(A)のTTSを生じること、さらに甲第一七八号証によると右の追加研究により、ピークレベル八三デシベル(A)の騒音を二分に一回の割合で暴露した場合一六〇回の時に最大四デシベル(A)のTTSが生じ八六デシベル(A)の騒音を同様の条件で暴露した場合一七〇回で五デシベル(A)のTTSを生じることを明らかにしている。

これによれば、原告らの中に一時的難聴が生じている可能性もないわけではないが、そのことから直ちに原告らが訴えている聴聴(永久的難聴)や耳鳴が本件航空機騒音によるものと断定することはできない。

2頭痛、肩こり、目まい等について

〈証拠〉によれば、原告生駒竜輔、同山崎イチエ、同木原よしの、同樋口タメエ、同田辺千代子ら原告九十数名はジェット機の飛行開始頃以降次第に頭痛、日まい、いらいら等に悩まされはじめ、そのうち原告伊藤隆雄、同影山和子、同山内松子ら二二名は精神安定剤、頭痛薬の使用を余儀なくされていると訴えていることが明らかである。

ところで原告らが強大な騒音や振動にさらされていることはさきに認定しとたとおり、人間がかかるストレスを蒙つた場合、不快感を感じるとともに、その健康状態、年令等の条件如何によつては頭痛、肩こり等の症状を覚えることのあることも一般に認められており、しかも、〈証拠〉によれば、クライターは騒音中の可聴成分によつても耳鳴、めまい、頭痛、吐気および耳の充満感等を惹起する可能性があり、これらはいずれも内耳を通して惹起されるものであるとしていることが認められ、さらに〈証拠〉によれば、昭和四〇年から同四七年四月にかけて原告ら居住地域およびそのその周辺地域等で行われた前記関西都市騒音対策委員会の昭和四〇年一〇月調査、前記大阪国際空港騒音対策協議会の昭和四二年一一月調査、前記大阪府の昭和四六年九月、同四七年四月調査等の結果、頭痛等を訴える率は、空港に近接するに従つて高率となり、またこれを年次別にみると、高芝地区では、昭和四〇年一〇月には一〇パーセント、同四二年一一月には25.9パーセントであり、勝部地区では、昭和四二年一一月には57.1パーセント、同四七年には六五パーセントであつて、いずれも次第に増加しているが、これは航空機の年間総離着陸回数ひいては騒音量の増加に対応し、かつNNI値の増大と頭痛、疲労度の増大との間に強い相関関係が認められるとする東京都公害研究所の昭和四六年三月の調査結果とも一致することが明らかであり、かかる事実に徴すると、本件空港に離発着する航空機の騒音が原告ら周辺住民の頭痛や肩こりなどの原因となつている場合もあり得るものといわねばならない。

3胃腸障害について

〈証拠〉を総合すれば、原告椿本竹夫同宮本昭典、同長井孝一、同田辺政蔵、同渡辺忠治、同田辺芳太郎、同中井誠一同長越秋一、同中島桂子、同松村岩夫、同香川チカエ、同山根千枝子、同山田裕三ら多数の者は航空機騒音の激化した頃より食欲不振、胃痛、胃腸障害に陥り、とくに原告田辺政蔵は昭和四二年に十二指腸潰瘍、同四六年一月に胃潰瘍と診断され約一年間通院加療し、同中井誠一は昭和四六年三月に十二指腸潰瘍のため約一月間入院し、同田辺芳太郎は昭和四六年七月胃潰瘍により約四〇日間入院し、原告宮本昭典は昭和四七年五月胃潰瘍により手術等で一月間入院したこと、また原告椿本竹夫は昭和四五年二月頃から神経性胃炎に、原告長井孝一は昭和四四年に十二指腸潰瘍に、原告渡辺忠治は昭和四三年頃から胃潰瘍に、原告長越秋一は昭和四七年九月胃潰瘍および十二指腸潰瘍に陥り、その余の右原告らもいずれもその頃又は現在に至るまで通院加療を余儀なくされ、あるいは薬剤の投与を受けていることを訴えており、また甲第七号証、第二三号証、第九七、第九八号証、前記甲第七八号証の六によれば、昭和四一年から昭和四六年にかけて原告ら居住地域等において行われた各種アンケート調査の結果では、右原告らのほかにも胃腸障害および食欲不振を訴える者が相当数存することが認められる。

そして〈証拠〉によれば、胃腸障害や胃潰瘍、十二指腸潰瘍がストレス病の典型であり、精神的、肉体的ストレスの継続が原因となつて発生することが多いこと、騒音が物理的ストレス作因として重要な働らきを有するものであることは医学上明らかであるし、〈証拠〉によればジェット機騒音によつて胃運動の抑制、胃液分泌の減退、胃酸の変動がおこり得、かかる影響は交感神経系と下垂副腎皮質系を介して起るものであることが認められる。そうすると日々ジェット機騒音の下で生活している原告らの中には、その胃腸障害が本件航空機の騒音に基づいて生じた者もないとはいえない。

4高血圧、心悸昂進について

〈証拠〉によれば、原告河原熊太郎、同釜谷富太郎、同西村勲、同福田スガ、同堀口たづる、同奥村春枝、同半田操、同渡辺トシ子、同中島きくえ、同戸上綾子らは航空機騒音の激化した昭和四〇年頃から次第に高血圧の症状を呈しはじめ、ことに原告戸上綾子は昭和四四年三月に高血圧の発作を起し、また原告中島きくえは昭和四六年一〇月高血圧のため中風の症状を呈するようになり、その余の右原告らも通院加療、又は薬剤の常用を余儀なくされていることを訴えており、また〈証拠〉によれば、原告藤原としは昭和四五年二月五日のB滑走路供用開始頃より心悸昂進し、同年三月二〇日心筋梗塞の発作を起こし、以来右手が不自由になつたこと、原告安行久子も同じ頃から同様心筋梗塞の状態に陥つたこと、原告坂田寿々えは昭和四〇年頃に心臓病の症状を呈するようになつたが、以来右症状は次第に悪化していること、その他原告藤田清は不整脈で昭和四四年春から秋まで入院を余儀なくされ、原告瀬富千代子は昭和四六年一〇月二八日神経性の心臓発作で入院し、原告繁山実は昭和四七年四月一〇日から四〇日間心筋梗塞で入院するなど合計一四名の原告らがここ数年来心臓発作を起し、通院加療又は自宅療養を余儀なくされていること、その他原告浅海清美、同佐谷勇、同堀口たづる、同嘉松幸一、同米田久野ら合計四一名の原告らは数年以前よりジェット機が飛来する際に心悸昂進を覚え、ある者は医師の治療を受け、ある者は薬剤を常用していることを訴えていることが明らかである。

そして〈証拠〉を総合すれば、循環器系の病気である高血圧や心臓病も典型的なストレス病であり、騒音等による精神的心理的ストレスが原因となつて自律神経系のうちの交感神経系緊張反応として末梢血管収縮、血圧上昇を起し、このような反応が持続することによつて高血圧症その他の心臓病が起りうるものとされており、また〈証拠〉によれば、昭和三三年四月に三重県立大学医学部の坂本弘助教授らが某ジェット機飛行場周辺で騒音による被害について調査したところ、六一パーセントの住民が心悸昂進を訴えていることが認められ、その他昭和四〇年一〇月から四三年一二月までに本件空港周辺において行われた各種アンケート調査の結果においても相当数の者が高血圧等の循環器系疾患を訴えており、右調査結果を比較検討すれば本件空港に近接する地域ほど被害の訴え率が高くなつていることが認められる。そうすると連日強大な騒音や振動等にさらされ、これに強い不満や不快感等を覚えている原告ら地域住民の中には健康次第では本件航空機騒音により高血圧、心悸昂進等の循環器系疾患が生じている可能性もあり得るものといわなければならない。

5妊婦および胎児等に対する影響について

〈証拠〉を総合すれば、前記騒音影響調査研究会に属する安藤四一氏らの航空機騒音による胎児への影響に関する調査研究(昭和四五年度)において、妊娠前または妊娠初期に騒音激じん地域である伊丹市に転入した母親から生れた乳児は、妊娠後期に同市に転入した母親から生まれ乳児または出生後同市に転入した乳児に比べて航空機騒音に対する反応が少なく、また伊丹市で生れた者の出生時体重は昭和三六年から三八年において、周辺の比較的静かな都市において出生した乳児のそれと殆んど差がなかつたか、ジエット機が就航し騒音量が増加した昭和四〇年から四二年においては、他の周辺都市で生れた者より明らかに低くなつており、低出生時体重児、同身長児の全体における割合も他の地域より高いし、また昭和四四年生れの二五〇〇グラム以下の低出生時体重児の割合は周辺都市では5.8パーセントであるのに対し、ECPNL九〇以上の地域では8.2パーセントであつて異常に高い割合を示しているとし、このことから妊娠初期の五か月間は胎児は母体を通して生後その環境騒音に順応するよう何らかの影響を受け、従つてその発育も相当阻害されているものというべきであるとしていること、のみならず右研究によれば、昭和四〇年から四二年生れの三、〇一六名を対象にした調査の結果、妊娠中毒症になつた妊娠の割合は航空機騒音の増加と共に増し、ECPNL九〇以上の地域では一四パーセントに達しており、他の地域に比べると約二倍になるとしていて、妊娠中毒になつた場合、出生時体重は減少し、その約半数が未熟児となつて出生し、騒音は明らかに胎児に悪影響を与える可能性を有するものと結論していること、また〈証拠〉によれば、小林嘉一郎氏らは昭和四三年八月発表にかかる大阪国際空港周辺の航空機騒音の実態とその周辺住民に及ぼす影響についてと題する研究において騒音激甚地区である久代、久代新田、加茂、下加茂の各地区とその他の地区について調査したところ、航空機騒音の影響のみによるものとは断定し得ないけれども、騒音激甚地区における胎児および乳児の発育状態は伊丹市における平均的な胎児および乳児の発育状態に比べ明らかに劣つており、航空機騒音が胎児および乳児の発育に悪影響を及ぼす可能性なしとしない旨結論していることが認められる。ところで〈証拠〉によれば、原告岡部清子は昭和四二年三月および昭和四七年四月の二度に亘り、また野川邦子も昭和四二年以降二度に亘り、さらに同多田佐恵子は昭和四〇年および同四二年に、同杉浦敏子は昭和四四年一月に、同前田美枝子は昭和四七年一〇月に、同作本茂春の妻は昭和四二年一二月に、同三崎宗一の妻は昭和四四年にいずれも流産していることおよび同人らはいずれも妊娠中、航空機騒音に不快感を抱き苛立ちを覚えていたことが認められ、原告らは航空機騒音に基づく不快感、苛立ち、精神不安定が右流産の直接または間接の原因であると主張するが、これが因果関係については直接的、具体的な証明が尽されていないし、右流産等の率が他の地域に比べて異常に高率であることを認めるにたる証拠もないから、前記安藤四一氏らの調査結果だけから右流産を航空機騒音に基づくものと速断することは相当でない。

6鼻出血について

〈証拠〉によれば、昭和四六年頃から勝部地区の子供に鼻血を出す者が多くなり、原告土田信子の孫幸世(四歳)、同森田一三の二女貴子(八歳)、同遊上利一の三男博幸ら原告らの家族のうちにも鼻血を出す者が多くなつたこと、しかも右出血は鼻部打撲などの外的要因がないのに突如発生し、その症状は出血も多量で激しい頭痛を伴う等日常経験するところの鼻出血とはその態様を異にし、またその被害は成人にまで及び特に被害地域において長時間生活する者ほどその程度が大きいことが認められ、また〈証拠〉によれば、豊中市が昭和四七年一〇月一日から五日にかけて航空機騒音と排気ガスの影響が甚しい原田小学校、航空機騒音の影響が強い豊島小学校、航空機公害の影響の少ない桜井谷小学校の各校区の児童を対象として調査したところ、鼻血を出した者の割合は原田校区四二パーセント豊島校区三七パーセント、桜井谷校区三三パーセントであり、原田校区中の勝部地区では六三パーセントにのぼつていることが認められる。しかしながら甲第一六一号証の大阪大学医学部耳鼻咽喉科の医師の診断によれば、右鼻出血は乾燥性前鼻炎によるとの診断結果であるが、その原因については現在までのところ明らかにされておらず、他にそれが本件航空機に基づくものであると断定するに足る証拠はない。

7気管支炎等の呼吸器系疾患および目の痛み等について

〈証拠〉によれば、豊中側ことに勝部地区居住の殆んどすべての原告またはその家族らおよび利倉地区居住の原告またはその家族らの多くが気管支炎、鼻炎副鼻腔炎、咽頭炎、喉頭炎、喘息等の呼吸器系疾患や目の痛みなどの症状を訴えていること、また前記各地区に暴露される排気ガス中に前記呼吸器系疾患の原因となる前記有害物質が含まれていることは前叙のとおりである。

しかしながら勝部地区等における排気ガス調査の結果によれば、右排気ガス中に含まれる前記有害物質の量は規制基準値または同提案値以下であり、大阪市内の大気汚染度よりもやや低いのみならず勝部地区の排気ガスは自動車によるものがより多く含まれていることさきに述べたとおりであるから、勝部地区居住の原告らに呼吸器系疾患についての訴えが多いとしても、それが本件空港に離着陸する航空機の排気ガスに含まれる有害物質によつて生じたものと断定することはできない。

8ホルモン系機能に対する影響について

〈証拠〉によれば、騒音は生体維持のうえで主要な機能を果している副腎皮質ホルモンや身体の成長や発育に大きな影響を及ぼす甲状腺刺激ホルモン等のホルモン系機能に対しても大きな影響を及ぼすことが認められる。以下少しく検討するに、〈証拠〉によると、三重県立大学医学部衛生学教室の坂本弘氏は騒音と適応に関する研究、特に脳下垂体―副腎皮質系の態度についてと題する研究において、九五デシベル(C)の騒音下で作業している女子紡績作業員について作業の前後における副腎皮質ホルモンの分泌量の変化およびその原因等について検討した結果、女子紡績作業員は九〇ないし九五デシベル(C)の騒音下で一〇時間前後の作業により、副腎皮質ホルモンの分泌減少に起因する尿中一七―ケトステロイドの排泄量の減少、副腎髄質ホルモンであるエヒネフリン注射による流血中好酸球減少率の低下、緊急反応に基づく血中アドレナリン量の増加を来たすが、一方ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)注射による流血中好酸球数減少率は正常値を保持することから、騒音暴露によりいわゆる緊急反応が起こり、アドレナリンの分泌は高まるが、同時に騒音は間脳と下垂体系の感受性を低下させ、その結果ACTHの分泌の減少ひいては副腎皮質ホルモンの分泌の減少をもたらすこと、なおこの変化は一〇〇デシベル(C)一時間、八〇デシベル(B)四時間程度の暴露で出現し、一、〇〇〇ヘルツ付近にピークをもつ騒音が最も影響を与えやすいこと、なお右の変化は三時間程度で回復するが、暴露を繰返しても慣れの現象は見られず、回復時間は次第に延長して、自律神経と内分泌系のバランスの乱れは固定化するおそれのあることを指摘しているし、〈証拠〉によれば、その他の各種の実験結果や研究によつても騒音刺激が副腎皮質ホルモンの分泌を促進し、あるいはそれを抑制する等、副腎皮質の機能に対し大きな影響を与えていることが明らかである。また〈証拠〉によれば、若原正男氏やタマリー氏の実験結果や研究によると九〇ないし一一〇デシベル(A)程度の騒音刺激が性ホルモンの分泌を促進し、あるいはそれを抑制する等、性ホルモンの分泌に異常を生じさせることのあることを示している。

しかしながら航空機騒音がホルモンの関係で原告らに個別的に何らかの影響を与えているのかどうか、本件原告らの生理不順や流産がその影響によるものか否かについては他に個別的具体的な証拠は全くないから、当裁判所はにわかにその有無を判定することはできない。

9病気療養に対する障害について

前記のごとき強大な航空機騒音が病気療養中の者の精神的、肉体的安静を害しその療養の妨げになることは容易に想像し得るところ、〈証拠〉を総合すると、元原告であつた南兵次郎は昭和四二年頃から心筋梗塞で自宅療養を、また原告岡部清子の母は喘息で病臥していたが、いずれも死亡するまでの間、常に航空機騒音に悩まされていたこと、また原告福田スガは昭和四〇年に脳溢血で倒れその後療養中であるが、航空機騒音により常にいらいらし、神経過敏で十分に療養ができないため、常に再発作をおそれながら生活していること、原告尾村まさえは昭和四七年五月頃甲状腺の手術を受け、以来自宅療養中の身であつて医師より安静を命ぜられているが、航空機騒音のためいらいらしその安静を保ち得ないこと、また原告杉浦きくは昭和四一年以来心臓病、神経循環無力症で、原告勇伊宏はメニエール症候群で、原告池田亀太郎は昭和四二年六月以来脳溢血の発作による半身不随で、同前長藤吉、同中島きくえ、同古庄豊、同関本久次郎、同吉沢宗七、同田中鯉三郎、同田辺千代子はいずれも高血圧症で、同吉森忠雄は昭和四〇年以来、同長井孝一は昭和四四年以来十二指腸潰瘍等で、同田井中一枝、同関沢龍吉、同細川勝巳、同福永ユミ、同溝手清太らは慢性腹膜炎、胃不全、腎膜炎等で、同加古延子は昭和二一年以来関節リウマチで、同大橋とめは昭和三九年以来神経痛で、同井下喜夫は昭和四二年以来多発性神経炎で、同坂田寿々えは昭和四〇年以来、同藤原としは昭和四五年三月以来いずれも心臓病で、同山口多八は昭和四〇年に頸部骨折で、同山田とみは交通事故による左足骨折等の身体障害で、同原口ハルエは昭和四七年以来腸手術後の経過不良で、同喜村謙一は脳溢血発作後の身体障害で、その他同村上武夫、同六浦貞子、同鷲尾いち、同前田トヨ、同森田サトエ、同布村美芳らもそれぞれの持病でいずれも現に療養し、又は過去に療養していたが、前同様航空機騒音がその療養の妨げになつていることが認められる。

二  精神的被害

1情緒的被害について

本件空港に離着陸する航空機の発する騒音が時により一一〇ホンにも達し、その機数も昭和四七年四月当時で一日平均四一八機、一時間平均一四機にのぼることは前叙のとおりであり、殊にその六割を占めるジェット機の騒音は日常生活上他に類例をみないほど強大であるほか高周波成分を多く含む金属性の音であることもさきに述べたとおりであるから、かかる騒音を前記のような頻度で蒙つている原告ら全員が不快に感じ、あるいは苛立ちを覚えているであろうことは容易に推認することができる。

ところで甲第一八九号証によれば、大阪市立弘済院付属病院医師宮崎学氏が被験者一〇名に一〇〇ホンの騒音を三、四分間聞かせて脳に血流を送る内頸動脈と推骨動脈の血液量を計測し、騒音が血液の脳循環に及ぼす影響を調査したところ八〇ないし一五〇パーセントもの血流の著しい増加が認められ、また被験者全員が頭痛や不快感を訴えたことが認められ、右実験結果によつても強いレベルの騒音によつて人々が不快感を蒙り情緒的混乱を生ずることが明らかであるが、さらに〈証拠〉によれば、昭和四〇年から四六年にかけて原告ら居住地域およびその周辺で行われた各種アンケート調査の結果でも、騒音や排気ガスによつて苛立ちや不快感等の情緒妨害を訴える率は、本件空港に接近するに従つて増加し、原告ら居住地域では殆んどすべての者が右被害を訴えていることが認められ、したがつて原告らが本件航空機騒音に対しいずれも強い不快感をいだいていることは明らかである。

2墜落の恐怖について

〈証拠〉によれば、原告らの中には航空機の墜落に対する恐怖感を訴える者も多数いるが、本件空港には前記のとおり現在一日に四一八機程度の航空機が発着し、多い時間帯では一、二分おき位に離着陸する有様であり、その過密状態は限度に近い状態にあるから、その離着陸直下に居住する原告らの中に墜落の危険を感じ、常に不安な気持にかられながら生活をしている人がいても何ら不思議ではない。

3ノイローゼおよび性格への影響について

〈証拠〉によると、原告久保二郎は昭和四四年六月にケタニー症で入院し、その後も神経不安定等で数回に亘り入退院を繰返し、原告野沢正雄の二女は昭和四七年一二月にノイローゼのため入院し、また原告今井忠治の妻も精神病院に通院中であり、その他原告阪上昭子の長男、同前田好雄の二男らはノイローゼ気味で入院し、原告阿世賀主夫、同吉田末子ら多数の原告がノイローゼ、あるいは自律神経失調症で医師の治療を受け、もしくは精神安定剤の使用を余儀なくされせられていること、また原告武川陽之助、同森島勇、同岡出ヒラエらは近時に至つて落着がなくなり、些細なことに立腹しやすくなつており、また原告らの子供の中にもその傾向があらわれていること、以上の事実が認められる。

また〈証拠〉によれば、町田恭三氏らの調査の結果では、騒音の暴露によつて情緒的混乱が起ることがあり、その影響は年令の低い者ほど大きいことが明らかであるし、〈証拠〉によれば、九州大学が防衛庁の委託を受けて行なつた研究結果では、騒音が学童期の心理面の発達をゆがめている可能性が窺われるとしていること、また〈証拠〉によれば、昭和四〇年から四二年にかけて本件空港周辺等において行われたた各種アンケート調査によつても騒音によりノイローゼおよび神経衰弱気味になつたと訴える者が六ないし一三パーセント以上もあつたことが認められる。

三  睡眠妨害

〈証拠〉によれば、労働科学研究所の大島正光氏らは騒音の睡眠におよぼす影響についてと題する研究において、成人男子四名に対し持続時間三秒間五〇〇ヘルツで、三〇、四〇、四五、五〇、六〇七五フォーンの音を三〇秒から五分までアトランダムに三〇秒刻みの一〇種の間隔をおいて断続的に暴露し、音響刺激が就寝および覚醒に及ぼす影響を調査研究した結果、(イ)音響が強いほど眠りにはいる時刻は遅くなり、音響刺激に対する反応回数が増え、就寝が妨げられていること、(ロ)また音響が強いほど覚醒時刻は早くなり、一定時間内の反応回数は音響が強いほど多いこと、(ハ)音響刺激の影響は覚醒時よりも、就寝時に大きいこと、(ニ)音響刺激が就寝を妨害し、覚醒を促進する限界は四〇ないし四五フォーンと考えられるとしていることが認められる。

また〈証拠〉によれば、前記騒音影響調査研究会は昭和四五年に航空機騒音の睡眠に及ぼす影響についてと題する研究において、成人男子学生八名を被験者として夜間睡眠八時間の間に人家内で録音したコンベア八八〇の騒音をピーク値六五、七五、八五デシベル(A)で暴露(持続時間一七秒)してその睡眠に及ぼす影響を研究した結果、騒音暴露により、深い睡眠を示す睡眠第四段階の全睡眠時間に占める割合が減少し、比較的浅い睡眠状態である同第二段階はその割合が増加しいずれも刺激を与える夜の回数を重ねるにつれて、この傾向が薄らぐこと、騒音を暴露した場合、一夜の記録中覚醒および各睡眠段階の出現回数の平均は増加し、持続時間の平均は短かくなつており、騒音暴露により睡眠の深度が変りやすくなること、すなわちピーク値六五デシベル(A)の騒音を暴露した場合、浅い睡眠状態である睡眠第一段階では九〇パーセントが覚醒し、比較的浅い睡眠状態である第二段階では56.6パーセントが睡眠深度が浅くなり、うち31.3パーセントが覚醒し、第三段階では61.1パーセントが睡眠深度が浅くなり、うち22.2パーセントが覚醒し、最も睡眠深度の深い第四段階では50.0パーセントが睡眠深度が浅くなり、うち6.3パーセントが覚醒し、賦活睡眠期(REM期)では23.5パーセントが覚醒していること、次にヒーク値七五デシベル(A)の騒音を暴露した場合、睡眠第一段階では87.1パーセントが覚醒し、第二段階では73.2パーセントが睡眠深度が浅くなり、そのうち33.9パーセントは覚醒し、第三段階でも78.6パーセントが睡眠深度が浅くなり、このうち三一パーセントが覚醒し、睡眠第四段階では52.9パーセントが睡眠深度が浅くなり、賦活睡眠期(REM期)では35.5パーセントが覚醒していること、またピーク値が八五デシベル(A)の騒音を暴露した場合第一段階では一〇〇パーセントが覚醒し、第二段階でも一〇〇パーセントが睡眠深度が浅くなつており、そのうち59.2パーセントが覚醒し、第三段階でも92.9パーセントが睡眠深度が浅くなつており、そのうち28.6パーセントが覚醒し、第四段階でも62.5パーセントが睡眠深度が浅くなつておりそのうち18.7パーセントが覚醒し、賦活睡眠期では46.2パーセントが覚醒していること、結局各強度の騒音暴露により認められる睡眠段階の変化は六五デシベル(A)では51.5パーセント、七五デシベル(A)では61.7パーセント、八五デシベル(A)では78.2パーセント、であるとしていること、以上の事実が認められる。

ところで、〈証拠〉によれば、音響刺激等のない健全な睡眠中でも睡眠深度が変化し、かつ第三段階や第四段階にある時間は短く第二段階にある時間の方が長いから、夜間睡眠中に八五デシベル(A)の航空機騒音が暴露された場合殆んど一〇〇パーセント近くの者が影響を受けることになる。のみならず甲第一六号証の一、二によれば、長田泰公氏らは騒音の睡眠に及ぼす影響に関する実験的研究ならびに短時間の連続および断続騒音の睡眠に及ぼす影響と題する研究の結論として、四〇デシベル(A)の騒音でも睡眠が妨害されること、四〇デシベル(A)よりも五五デシベル(A)の騒音の方がはるかに影響が大きいこと、睡眠を確保するためには夜間における騒音レベルが四〇デシベル(A)を越えることは好ましくなく、老人や病人の場合にはさらに低いレベルが要求されること、さらに三〇分に一回(暴露時間二分三〇秒)ごと、実験時間六時間、暴露時間合計が三〇分にすぎない騒音暴露でも睡眠深度については六時間連続暴露のそれに比べ覚醒期脳波の出現回数は多く平均睡眠深度も浅くなり、六時間連続の騒音暴露と同程度の睡眠妨害をもたらすため、睡眠には連続した静かさが必要であると結論づけていることが認められる。

また〈証拠〉によれば、山本剛夫氏らの研究では住宅地域で室外レベルが五五ホン、商業地域で五五ないし五九ホンのとき五〇パーセントの者が睡眠妨害を訴え、さらに入院患者に対するアンケートでは四〇ないし四四デシベル(A)で五〇パーセントの者が睡眠妨害を訴えていることが認められる。

しかして〈証拠〉によれば、第一に本件空港においては午後一〇時(昭和四〇年一一月二四日以降同四五年二月までは午後一一時まで、同月以降昭和四七年四月二六日までは午後一〇時三〇分まで)までは屋内においてさえ五五ないし九〇ホンという激しい騒音に暴されるためその間就寝することは妨げられ、原告安芸宏美、同石橋種和らのごとく早朝に出勤する者にとつては相当の苦痛を与えること、第二に夜間における八便の郵便機は勝部地区において離着陸合計八回、その他の地区において離陸または着陸のいずれか四回に亘り、七五ホン前後の騒音を発するが、特に周囲の静寂な深夜であるため殆んどすべての原告らがこれまで睡眠を中断された経験を有すること、なお睡眠の浅い老人や病人は勿論、健康な者でもそのときの状況次第では一旦睡眠を中断されると容易に寝つかれず、十分な睡眠がとれないまま朝を迎えることがあること、第三に午前七時(昭和四〇年一一月二五日以降同四五年二月までは午前六時以降、同月以降昭和四七年四月二六日までは午前六時三〇分)を期して航空機は本件空港へ離着陸を開始するので休日と雖も朝寝が許されず、前日深夜まで勤務した者らにとつては相当の苦痛になること、第四に原告中川清、同土坂由松、同久保二郎、同前田好雄らのごとく定期的に夜間勤務に従事しなければならない者はより激しい昼間の騒音の下では十分な睡眠をとることが困難なため職務上支障の生ずることがあること、以上の事実が認められる。

四  日常生活の妨害

1会話の妨害について

〈証拠〉によれば、原告らがすべて異口同音に航空機騒音により会話が妨害されていると述べ、日常生活に支障の生じていることを訴えていることは明らかである。

ところで、〈証拠〉によれば、信号音(シグナル)と騒音(ノイズ)の比(S/N)が三〇デシベルで信号音の明瞭度が九四パーセント、二〇デシベルで八五パーセント、一〇デシベルで六八パーセント、〇デシベルで四五パーセント、マイナス一〇デシベルで一五パーセントとなることが厚生省国立衛生院の小林陽太郎氏らの実験により明らかにされており、さらに現場測定として、東京都港区、品川区の中で道路交通騒音、電車騒音、航空機騒音に暴露された地点および閑静地点に存在する小学校合計一二校において測定を行つたところでもほぼ同様の結論が得られている。

また〈証拠〉によれば、厚生省生活環境審議会公害部会騒音環境基準専門委員会が騒音環境基準設定資料として収集した各種実験結果等によつても騒音レベル四五ホンのときの日本語無音味百音節の聴取明瞭度は約八〇パーセント、六〇ホンでは約六〇パーセント、七〇ホンでは五〇パーセント以下になることが認められ、また〈証拠〉によればNNI六〇台の地域では会話妨害の訴え率は九〇パーセントにのぼることが認められる。

しかして右実験等の結果を総合すると原告らは航空機特にジェット機が飛来する都度会話を妨害されていることは明らかであるから、右騒音が間欠音であり、一過性のものである点を考慮に入れてもそのため原告らが日常生活上蒙つている被害は決して小さくないといわなければならない。

2電話の通話妨害について

原告ら居住地域においては航空機が飛来する都度会話が妨害されること前叙のとおりであるが、電話の通話についても同じことがいえ、そのために通話時間が延長し料金が増加することになる。

ところで、その被害を軽減するため航空公害防止協会が昭和四六年から原告ら居住地区の一部において騒音用電話機の取付け助成を行つていることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、右電話機は騒音量が八九ホン以下の場合には通話状態は良好であることが認められ、これによつて電話通話の妨害は可成り軽減されたことは明らかであるが、右電話機によつても騒音量が九〇ホン以上の場合には通話の妨害は完全には除去されないから、これにより通話妨害が完全に解消されたとはいい難い。

3テレビ、ラジオの視聴障害について

〈証拠〉によると、原告ら居住地域においては航空機飛来の都度、その騒音によつてテレビ、ラジオの音声がかき消され、映像が乱され、ときにはカラーも消えることがあること、そのためニュースやドラマもその面白さが半減すること、そしてこれを避けようとすれば航空機が飛来する都度テレビ、ラジオの音量を調節しなければならないが、前叙のごとく数分おきに航空機が飛来するため調節が煩にたえず、そのため子供達はテレビに近接して見るようになり視力に悪影響を及ぼすおそれもあること、なお特に自宅療養の病人ま老人などはテレビ番組を殆んど唯一の楽しみにしているが、前記のような事情はその楽しみをも妨げていることが明らかである。

4思考中断、読書妨害について

さきに述べたような頻度で上空を通過する航空機の強大な騒音がその都度人々の思考や読書の妨げとなることは容易に推認しうるものであるところ、〈証拠〉によれば、現在よりも離着陸総機数およびジェット機数の相当少かつた昭和四二年一一月、一二月に大阪与論調査研究所が大阪国際空港騒音対策協議会の委託により空港周辺八市の住民一、二〇〇名(回答数九九三名)を対象に調査したところによつても、すでに高芝、むつみ地区では一〇〇パーセント、摂代地区では八八パーセント、勝部地区では六四パーセントの住民が騒音は新聞雑誌の閲読や思考にとつて大変邪魔になる旨訴えていたことが明らかである。そしてその被害が特に精神的労働に従事する者にとり如何に大きいかはいうまでもない。

5憩いと団らんの破壊について

原告ら居住地域における航空機の騒音が会話、通話を妨げ、テレビ、ラジオの視聴の妨害にもなつていることは前叙のとおりであるから、午後一〇時まで間断なく頭上を通過する航空機騒音が夕食後の家庭内における憩いと団らんの妨げにもなつていることが明らかであり、その被害も軽視することはできない。

6家族の離散と別居、親戚、友人付合の妨害について

〈証拠〉によれば、原告らの中には騒音のため家族間に摩擦が生じたり、健康を害したりして別居を強いられていると訴える者もあれば、あるいはまた親戚友人らが近寄らないため人間関係が疎遠になつていく寂しさを訴えている者もあり航空機騒音がかような点にまで影響を及ぼしていることが窺われる。

7作業妨害について

〈証拠〉によれば、レーマン等多数の学者による室内実験の結果では、四五ないし五五デシベル(A)の白色騒音等により算術計算成績が下し、六〇デシベル(A)の白色騒音により乗算(乗数、被乗数共三けた)の所要時間が著しく延長し、七五ないし八五デシベルの混合騒音(ラジオサイレン等)では文章理解度、算術計算成績が共に低下し、さらに九〇デシベルの手紙分類機による騒音では作業量が減少し、誤りが増大するとの実験結果が報告されており、また甲第一五号証によれば、騒音レベルが九〇デシベル(C)以上になれば、騒音が連続的であるか間欠的であるか、作業者がその騒音に対する慣れを有するか否かに関係なく、作業の誤びゆうの数は有意に増加するとの実験結果が示されている。また〈証拠〉によれば国立公衆衛生院生理衛生学部の田多井吉之介氏らの実験によつても、騒音が精神作業の妨害要因となり得ることが認められ、以上の事実に〈証拠〉を総合すれば原告らの中にもジェット機飛来の都度騒音の影響を受け、作業能率に低下を来す者のあることが認められる。

8交通事故の危険について

〈証拠〉によれば、原告黒山卯之助、同大東芳次郎はいずれも自動車の警笛やエンジン音が航空機騒音にかき消されて聞えなかつたため追突またははねられて受傷し、また原告小林コスエの孫や原告

山恭司、同田野十一も同様に受傷したこと、その他、原告杉浦きく、同武川陽之助、同吉森忠雄、同小川頼子、同山田健紀、同奥村かず子、同久永ヨシエ、同河合きよ、同伊藤隆雄らは騒音のため接近する自動車に気づかず危く交通事故に遇いそうになつたことがあるなど、原告ら居住地域においては航空機の飛来する都度自動車のエンジン音や警笛が聞こえなくなり、交通事故発生の危険性があること、また高芝地区では騒音によつて列車の接近する音さえかき消されることがあるため踏切事故の起る危険性が大きいこと、以上の事実が認められる。

9家屋の損傷による被害について

航空機ことにジェット機の通過する際に、原告ら居住家屋の振動することがあることは前叙のとおりであり、また〈証拠〉によれば、原告ら居住地域ことに高芝、むつみ、摂代の各地区においては屋根瓦のすべり止め工事を施している家や壁に亀裂の生じている家のあることが認められる。しかしながら他方検証(第一回)の結果によれば、前記地区に存する家屋の多くは比較的古い木造家屋であることが認められ、従つて右家屋の損傷は建築後長期間経過したことによる損耗やその他材質、工事施工方法の巧拙や乾湿等の大気の状態等に基づくことも十分考えられるから、前叙のごとき被害が航空機の航行による振動を原因として生じたものであると断定することはできない。

10農作物の被害について

〈証拠〉によると、昭和四二年四月下旬から五月上旬にかけて豊中市原田北町、原田、勝部、走井の各地区内の合計約四ヘクタールの農地に栽培されていた苺、白菜等に臼茶色の斑点があらわれ、葉や実が虫に喰われたようになり、収穫が激減したことがあり、また昭和四三年八月上旬走井地区の水田等八ヘクタールにおいて水稲、大豆、胡瓜、葱等の農作物等に火傷に似た異常な斑点が発生したことが認められる。しかしながらその原因が航空機の排気ガスであると認めるに足る証拠はない。

11洗濯物の汚損等について

〈証拠〉を総合すると、勝部地区はB滑走路の誘導路に近接しているため特に排気ガスの被害を受けることが多く、そのため同地区内に居住している原告ら方では洗濯物等の汚れることが多いことが認められる。

12まとめ

以上明らかなごとく本件航空機特にジェット機による騒音は、原告ら本件空港周辺の離着陸コース真下に住む多数の人々の日常生活における会話や通話を妨害し、テレビ、ラジオの視聴を妨げ、特には思考の中断や作業能率を低下させ、夕食後の憩いと一家の団らんを妨げるなどその日常生活に重大な影響を与えておりしたがつてその生活妨害による被害は著しいものがあるといわねばならない。

五  航空機騒音の教育に対する影響

1学校教育に対する影響について

〈証拠〉によれば、授業妨害は五五ホンの騒音で生ずるとされているが、さらに〈証拠〉によれば、大阪大学助教授北村音壱氏が昭和四二年八月運輸省航空局の依頼により原告ら居住地域周辺における小中学校における授業阻害率を求めたところ、久代小学校、南中学校の授業阻害率は極めて高く、いずれも航空機騒音防止法施行令二条に基づき学校等における航空機騒音の強度及びひん度の限度を定めた昭和四二年一〇月二三日運輸省告示第三〇八号の適用基準(昭和三四年四月八日調達庁告示第五号と同内容)を大きく上廻つていて最も被害が大きく、加茂小学校がこれに続き、さらに豊島、原田の各小学校における阻害率もかなりの程度に至つていたことが明らかであるから、原告ら居住地域における子弟の通学する学校は防音工事施行前においてはいずれも航空機騒音により多大の被害を受けていたものといわなければならない。

しかしながら右各小学校においては後に被告の騒音防止対策のところで述べるように昭和四五年頃から航空機騒音防止法五条に基づく防音工事が行われた結果三〇デシベル以上の減音効果を挙げていることが明らかであるから、現在においては右各学校における授業妨害は屋外における教育活動を除いてかなり大幅に軽減されているものといわなければならない。

2家庭における教育、学習への影響について

本件航空機騒音がその大さきと頻度からみて原告ら居住地域の家庭における生徒の学習の妨げになつていることはさきに思考中断等について述べたところからも明らかであり、その被害は高校や大学受験を控えた生徒らに特に著しいといわなければならない。なお被告が航空機騒音防止法六条に基づきその設置につき助成をなした後記共同利用施設も、その性質上右被害の緩和に役立つとは思われない。

六以上の事実によれば、本件空港に発着する航空機特にジェット機の発する騒音は、日常生活上他に例をみないものであり、そのため本件空港の離着陸コース真下に住む原告らが被つているいらいらや不快感など精神的な面における被害は極めて大きいことが明らかである。のみならず、その被害は、会話の妨害、テレビ、ラジオの聴取の支障、思考の中断、睡眠妨害等日常生活上のあらゆる面に及んでいる。もつとも原告一人一人についてみれば、年令、職業、健康状態等に応じ被害の内容や程度は様々であるが、或る被害は他の被害の原因ともなつていてその影響するところは複雑かつ深刻である。

ところで原告らは、右生活妨害、心理的被害のほかにこれが昂じて健康をも害されているとして難聴、胃腸障害、高血圧、流産、ノイローゼ、その他種々の身体的精神的被害を主張している。そしてさきにみた学者等の調査研究の結果や本件に現われたその他の若干の資料の中にも、騒音は人の精神的身体的健康に害を与えるとの調査研究の結果を報告したものが見受けられる。しかしながら、右調査や実験等の結果の多くは、定常騒音についての研究結果であるから、本件航空機騒音のような間欠的で一過性の騒音にそれがどこまで妥当するかは明らかではないし、本件航空機騒音についての乳幼児への影響を調査した騒音影響調査報告書等の結果についても、他の要因が影響していないかどうかを詳細に検討する必要があり、また前同報告書中航空機騒音による聴力損失を調査した部分についても、その実験室内での長時間にわたる実験環境自体の影響をも考慮すると、その結果が現実の生活環境においても具体的にあてはまるかどうかの調査研究も必要であると思われ、したがつてこれらの実験結果等から直ちにこの課題についての結論を出すことは相当でなく、広く国際的に数多くの研究を比較検討しなければこの問題について適切な回答を出すことはできないものというべきである。ちなみに〈証拠〉によれば、航空機騒音の精神的身体的健康被害について一九六九年モントリオールで開かれた国際民間航空機関(ICAO)の事務局が空港周辺における航空機騒音特別会議開催のために作成した空港周辺における航空機騒音に対する受忍限度に関する事務局案は、「空港周辺の騒音は人間の植物性機能や自律神経系に悪い影響をあたえ、それがひいては健康に影響を及ぼすということがある方面で指摘されてきたが、そのような影響は医学的にははつきりしない云々」と調査結果を要約し、また同会議の結論として、研究努力及び期間に限度があつたためとの条件付ではあるが、「空港周辺で航空機の騒音を最大に受けることにより一般的な意味での肉体的精神的に深刻な影響を受けるということを示す明確な証拠は現在のところないということが結論された。」としており、また〈証拠〉によれば、米国のスタンフォード大学教授で国際的にも著名クライター氏は、「騒音が人間や動物に感情的およびそれに伴う生理的反応たとえば血圧上昇をもたらし、その結果として騒音は人や動物に害を与えるということはあり得るが、大抵の人間や動物はくり返し騒音にさらされるとそのような反応は停止するという事実がある。こうした適応は明らかに身体への悪影響を防止している。」と指摘していることが認められるのであつて、航空機騒音による原告ら主張の身体的精神的健康被害の有無についての的確なる判断は、今後の調査研究にまつ外はない。したがつて、当裁判所はこの点については、さきに認定したところを除き本件に現れた証拠のみによつては未だこれを肯認するには至らない。

なお原告らが身体的、精神的障害として主張する症状等は、他の種々の原因によつて生ずる症状や疾患でもあることが明らかなところ、原告ら個々についての診断書は全く提出されておらず、他にも原告らの主張する症状等が何に基因するものであるかを判断する具体的な資料がないので、この点からもその主張の症状等が本件航空機騒音等によるものであると認めることはできない。

第四  本訴請求の根拠と被告の責任

一本件空港に発着する航空機によつてもたらされる騒音等により、空港周辺地域に居住する原告らが日常生活上種々の被害を受けていることは、叙上認定のとおりである。しかして、原告らは右被害をもつて人格権ないし環境権の侵害であると主張し、本件空港の設置管理者である被告に対し民法七〇九条、国家賠償法二条一項により損害賠償を請求すると共に、右人格権ないし環境権に基づき、本件空港における航空機の一定時間内の発着の禁止を請求(いわゆる差止請求)しているので、以下右各請求権の存否ないしは被告の責任の有無について検討を加えることとする。

二  人格権および環境権について

まず、原告らが、本件損害賠償請求において侵害された権利は人格権ないし環境権であると主張し、またこれらの権利をもつて本件差止請求の法的根拠としていることについて考察する。原告らの主張の骨子は、人格権ないし環境権は憲法一三条の生命、自由および幸福追求権、二五条の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利をその内容とする排他的支配権であり、その性質上これに対する侵害行為はいかなる理由があつても許されないから、公共性その他の要素について判断するまでもなく、被害の存在のみで違法性が肯認されるべきであり、殊に環境権については、人格権の外延を守るため、公害その他広範囲にわたる環境破壊が行われている現状に対処して、地域住民に具体的被害が発生する前段階で侵害行為を食い止めると共に、個々の住民の権利侵害とあわせて地域的な拡がりを持つ環境破壊を阻止できる有力な根拠となり得るというのである。

思うに、個人の生命、自由、名誉その他人間として生活上の利益に対するいわれのない侵害行為は許されないことであり、かかる個人の利益は、それ自体法的保護に値するものであつて、これを財産権と対比して人格権と呼称することができる。そして、本件における航空機騒音の如く、個人の日常生活に対し極めて深刻な影響をもたらしひいては健康にも影響を及ぼすおそれのあるような生活妨害が継続的かつ反覆的に行われている場合において、これが救済の手段として、既に生じた損害の填補のため不法行為による損害賠償を請求するほかないものとすれば、被害者の保護に欠けることはいうまでもないから、損害を生じさせている侵害行為そのものを排除することを求める差止請求が一定の要件の下に認められてしかるべきである。この場合、差止請求の法的根拠としては、妨害排除請求権が認められている所有権その他の物権に求めることができるが、物権を有しない者であつても、かかる個人の生活上の利益は物権と同等に保護に値するものであるから、人格権についてもこれに対する侵害を排除することができる権能を認め、人格権に基づく差止請求ができるものと解するのが相当である。

ところで、環境権については、実定法上かかる権利が認められるかどうかは疑問である。憲法一三条、二五条の規定は、いずれも国の国民一般に対する責務を定めた綱領規定であると解すべきであり、同条の趣旨は国の施策として立法、行政の上に忠実に反映されなければならないが、同条の規定によつて直接に、個々の国民について侵害者に対し何らかの具体的な請求権が認められているわけではない。原告ら指摘の如く、近時公害による環境破壊は著しく、良好な環境を破壊から守り、維持して行く必要があることは、何人といえども否定できないところであり、政府、公共団体が環境保全のため公害防止の施策を樹立し、実施すべき責務を有し、企業や住民も公害の防止に努めるべきことは当然であるけれども、このことから直ちに、公害の私法的救済の手段としての環境権なるものが認められるとするのは早計といわなければならない。また、環境が破壊されたことによつて個人の利益が侵害された場合には、不法行為を理由に損害賠償の請求をすることができ、違法性の有無を判断するに際し、被侵害利益の性質として環境破壊の点を考慮すべき場合があるとしても、環境権という権利が侵害されたかどうかを問題にするまでもないし、差止請求においても、物権のみならず人格権をその根拠とすることによつて救済の実をあげることができるのであつて、いずれにしても環境権を認めなければ個人の利益が救済できないという場面はないと考えられる。原告らによれば、環境権によつて具体的被害が発生する前に侵害を食い止め、また個々人の法益を越えて環境破壊を阻止することができるというが、かような役割を環境権に持たせようとするのであるならば、それは私法的救済の域を出るものであつて、実定法上の明文の根拠を必要とするといわなければならない。

なお、環境権についてはその排他性から何等の利益考量も許されず、被害の存在のみで違法性が認められるという議論にも首肯しがたいものがある。具体的な事件においていかなる事情を基礎として違法性があると認めるべきかの判断は、被侵害利益が排他的な権利である場合にも省略することはできないのであり、かかる利益考量を経て初めて、具体的事案に即した妥当な救済方法を導き出すことが可能となるのである。

ちなみに、本件において原告らは、航空機の騒音等により原告ら居住地域一般の環境が破壊されたことを強調してはいるけれども、これは結局のところ原告ら個人個人の生活上の利益の侵害に還元することができるものであるし、原告らは同時に個人の健康や生活利益に被害がもたらされていることをも個別的、具体的に主張しているのであるから、私法的救済の方法としては、殊更に環境権という概念を持ち出さなければその主張を維持できないわけでもないことに留意する必要がある。

三  不法行為責任について

航空機騒音等による被害については、航空機を運航させている航空会社に責任があることはいうまでもない。しかし、航空機による利用を前提として空港を設置し、これを管理している者も、右被害について原因を与えているということができる。そして、空港の設置管理者としては、航空機の安全な運航という空港利用に直接関連のある管理義務を有するに止まらず、空港利用に起因して第三者に被害を及ぼすことのないような方法でこれを管理する義務があるというべきである。これを本件に即していえば、本件空港の設置管理者である国(運輸大臣)は空港に発着する航空機の発する騒音等により第三者に被害を生じないように空港を管理すべきであり、管理行為が違法である場合には、国はその管制に従い本件空港に発着する航空機の発する騒音等により第三者に生じた損害につき、国家賠償法一条一項による不法行為責任を免れないと解すべきである。

この点に関し、被告は騒音を発しているのは航空機自体であつて、国ではなく、国(運輸大臣)としては空港を国の営造物として空港管理規則により一般に利用させているのでり、騒音を発する航空機といえども供用条件に従う限り利用を拒絶できないと主張している。しかし、営造物の設置管理者とその利用者との関係が管理規則に従つて律せられるということと、営造物の利用者でない第三者に対する責任問題は別個の事柄であるし、営造物の管理者としては、これをいかなる条件で利用させるかを決定する権限を有するものと解されるから、右主張は失当である。

なお、原告らは、被告の責任の根拠は民法七〇九条、国家賠償法二条一項であるというが、本件空港は国が運輸行政上の必要から設置管理しているものであつて、国の公権力作用に基づくから、民法に優先して国家賠償法が適用されるべきである。また、同法二条一項にいう営造物の設置管理の瑕疵とは、当該営造物が通常備えるべき性質または設備を欠き、安全性がないことをいうのであるが、本件の場合はこの意味の安全性の問題ではなく、航空機の発する騒音等による被害を生じないような方法で管理すべき義務の違反が問われているのであるから、同法一条一項が適用されるものと解すべきである。

四  差止請求権について

本件における航空機騒音のように、人の日常生活を著しく妨害し人の健康にも害を及ぼすおそれのある侵害行為が継続的かつ反覆的に行なわれている場合には、その救済手段として、既に生じた損害につき不法行為による損害賠償を請求できるに止まらず、人格権に基づいて損害を生じさせている行為そのものの排除を求める差止請求が一定の要件の下に認められるべきことは、前叙のとおりである。

ところで、被告は本件差止請求につき、空港管理者たる運輸大臣が営造物の管理権に基づいて定めた空港管理規則(昭和二七年運輸省令第四〇号)の設定、変更廃止の行為は、いずれも行政処分の性格を有するが、本件差止請求の如き内容を実現するためには、右規則の上であらたに本件空港の運用時間についての規定を設定しなければならないことになり、かかる規定の設定を訴訟上求めることは行政処分の給付を求めることにほかならないから、三権分立の建前上かかる差止請求は許されないと主張している。

しかし、本訴が空港管理規則の設定ないし変更を求める行政訴訟として提起されているのであれば格別、本訴は人格権が侵害されていることに基づき、空港の管理主体である被告に対し一定時間内の空港使用の禁止という不作為を求める民事訴訟であるから、被告主張の三権分立の建物とは何等関係がないというべきである。本訴が認容された場合、運輸大臣としては右管理規則において本件空港の運用時間を定める必要があるとしても、それは認容された私法上の請求権を実現するためのひとつの方法に過ぎないのであつて、右管理規則の設定ないし変更を裁判所が命じたことにはならないと解される。従つて、被告の右主張は失当である。

第五  違法性について

一本件航空機騒音等による被害につき、被告に不法行為責任があり、また差止請求が成立するとするためには、被告の本件空港の管理行為が違法であるという評価を受けなければならないが、右違法性の判断に際しては、被告の行為によつて生ずる被害が原告らにおいて受忍すべき程度を越えたものであるかどうかを基準とすべきである。この点について原告らは、本件の如く人格権が侵害されている場合には、被害の存在のみをもつて直ちに違法とすべきであり、受忍限度の有無の如き利益考量をすべきではないと主張している。しかし、単に被害といつても種々の態様や程度のものがあり、共同生活を送る上においてある程度までは受忍しなければならない場合もあり得るから、これを無視して一刀両断的に違法ときめつけることはできないであろう。特に、公害に基因する被害にあつては、社会的、経済的に複雑な種々の要因が作用しているのであるから、これらの要因を全く顧慮しないときには、事案の本質を見逃し、適切な解決を得られないことになる。これを要するに、違法性の判断にあたつては、種々の要素を基準としてしなければならないのであつて、本件における被侵害利益の性質についても、右判断のひとつの要素として考慮されるわけである。そして、このことは人格権が排他的な権利であるということと決して矛盾するものではないと考える。

そこで、本件の場合受忍限度を越える侵害であるかどうかについて検討することとするが、その際に考慮に入れるべき要素としては、(イ)侵害行為の態様と程度(ロ)被侵害利益の性質と内容、(ハ)侵害行為の公共性の有無、(ニ)被害防止のための対策の内容の四点が主要なものであると考えられる。そのうち(イ)、(ロ)については既に詳細に認定したとおりであるから、以下(ハ)、(ニ)について項を改めて検討する。

二  公共性について

1航空の公共性

交通機関としての航空が鉄道、自動車等と並んで重要な地位を占め、殊に国際間や国内の長距離輸送としては必要不可欠のものであることはいうまでもなく、また逐年航空の利用が一般化し、需要が増大していることは公知のとおりである。

この点を旅客輸送について二、三の資料によつて見ても、〈証拠〉によれば、国際間では、わが国の海外旅行者の航空機利用率は昭和四四年において七八パーセントで漸増の傾向にあり、旅行者数は昭和四四年が約四九万人、昭和四五年が約六六万人、昭和四六年が約九六万人、(いずれも沖繩を除く。)と毎年増加しており、なお、旅行目的別では昭和四四年が観光五二パーセント、業務四二パーセントであつて、観光目的で出国する者が業務渡航者数を上回つていること、入国外客のうち滞在客数は昭和四四年が約五一万人、昭和四五年が約七七万人、昭和四六年が約六六万人であつて、その過半数が観光客であること、また国内でも航空旅客輸送の延びが著しく、旅客数は昭和三五年が約一一二万人、昭和四〇年が五一七万人、昭和四五年が一、五四二万人であり、旅客人キロでは昭和三五年が六五八百万人キロ、昭和四〇年が二、九四四百万人キロ、昭和四五年が九、三一四百万人キロ、座席キロでは昭和三五年が九二八百万キロ、昭和四〇年が四、六三四百万席キロ、昭和四五年が一二、三五三百万席キロとなつていて、昭和三五年当時とでは、旅客数だけについて見ても、昭和四〇年が4.6倍、昭和四五年が13.8倍に増加していることが認められる。また、乙第一六号証、第四九号証は運輸省が昭和四二年三月と昭和四六年二月に国内線航空旅客について実施したアンケート調査に基づく航空旅客動態調査報告書の抜すいであるが、これによると、旅行目的別の順位は商用社用(47.1パーセント)、私用(23.4パーセント)、観光(16.8パーセント)、新婚旅行(6.7パーセント)、その他(5.8パーセント)となつており(昭和四六年調査)、また利用者の職業別順位は会社員(45.1パーセント)、企業、事業主(17.9パーセント)、主婦、学生(16.6パーセント)、公務員(4.5パーセント)、無職(3.4パーセント)等であり、年間所得層別では五〇万円未満と無所得が23.1パーセント、百万円未満が20.5パーセント、二百万円未満が25.8パーセント、三百万円未満が10.6パーセント、三百万円以上が12.6パーセントであつて(以上昭和四二年調査)、利用目的や利用階層が広範にわたつていることが認められる。

しかして、航空の需要増の原因としては、甲第四三号証、証人中西健一の証言にある如く、わが国経済の高度成長に伴い航空利用の時間短縮の効果が認識されたこと、また国民所得の向上により余暇が生み出されたこと、海外との交流が活発化したこと、大型機の採用によつて輸送量自体が増加したこと等をあげることができるが、将来においても需要増の傾向が衰えることはないものと予測される。このようにして、航空は今やかつてのようなぜいたくな乗物ではなく、鉄道や自動車等に劣らず公共性の高い交通機関であるというべきである。

右の点に関し、原告らは、航空は少なくとも国内においては他の交通機関との間に選択性、代替性があり、また需要増といつても結局は観光目的が主であつて、航空会社に対する国の過保護政策と航空会社の営業政策の産物であると主張し、公共性を否定しようとしているが、かかる見解は物事の一面のみを強調し過ぎるもので、到底左袒しがたい。

2本件空港の機能

本件空港は国際空港として数多くの外国航空会社も乗入れており、国際線の発着数の推移が別紙三大阪国際空港年間離着陸状況一覧表記載のとおりであることは先に認定したとおりである。そして、〈証拠〉によると、昭和四八年四月現在における国際線の発着便数は曜日によつて異なるが一日四〇便前後であつて、就航路線は大部分が東南アジア線であるが、他に南回りヨーロッパ線、北回りヨーロッパ線、太平洋線が各数便あり、そのうち国内で本件空港のみを出発地、到着地とする便が約半分あることが認められ、また、国際線の年間の乗降客数を東京国際空港と対比してみると、〈証拠〉によれば、昭和三八年は東京七五万四、〇〇〇人、大阪三万八、〇〇〇(両者合計の4.9パーセント)、昭和四〇年は東京一二四万一、〇〇〇人、大阪一三万五、〇〇〇人(9.8パーセント)、昭和四二年は東京一七九万二、〇〇〇人、大阪三一万四、〇〇〇人(14.9パーセント)、昭和四四年は東京二四四万七、〇〇〇人大阪四七万七、〇〇〇人(16.3パーセント)であることが認められ、更に〈証拠〉によれば、本件空港についてだけいうと昭和四六年が七二万二、〇〇〇人、昭和四七年が九八万七、〇〇〇人と逐年増加していることが明らかである。このように、本件空港は東京国際空港に次いで国際究港として重要な機能を営んでいるといわなければならない。

一方、国内路線について見ると、その発着数の推移は先に認定したように別紙三大阪国際空港年間離着陸状況一覧表記載のとおりであつて、〈証拠〉によると年間乗降客数は昭和三八年が二四二万三〇〇〇人、昭和四〇年が二七七万五、〇〇〇人、昭和四二年が三二二万一、〇〇〇人、昭和四四年が六〇九万人、昭和四六年が八七九万五、〇〇〇人、昭和四七年が九一一万六、〇〇〇人と増加の傾向が著しく、国内全国の旅客数の約二八パーセントが本件空港を利用していることが認められ、また〈証拠〉によると、昭和四六年二月の旅客動態調査では、本件空港を出発地とする到着地別の順位は東京が最高で全体の25.7パーセント、次いで鹿児島が10.3パーセント、板付が9.3パーセント、宮崎が8.2パーセント、高知が6.3パーセント等となり、東京を別とすると九州方面が41.4パーセント、四国方面が18.3パーセントであり、九州四国方面への旅客が全体の六割近くを占めていることが認められるのであつて、本件空港が国内航空路線の中で極めて重要な役割を果していることが明らかである。もつとも、東京、大阪間については国鉄新幹線と比較して時間短縮の効果はさほど大きくなく、また今後の新幹線網の発達に伴い、他の区間でも利用率が相対的に低下することは十分予想されるけれども、全国縦断路線および放射状路線の中核としての本件空港の地位には変りはないと考えられる。

3深夜郵便機について

本件空港を発着する航空機は上述の旅客便のみでなく、貨物便もあるが、その数は旅客便に比し遙かに僅少である。そのうち深夜に就航している郵便輸送機について検討を加えることとする。

〈証拠〉を総合すると、わが国の郵便物の引受けは一日平均約三、〇〇〇万通であるが、そうち航空機で輸送されるものが約三五〇万通あること、しかして専門機による輸送は昭和二九年四月に東京、大阪間に速達便について開始されたが、昭和四一年一〇月札幌、東京、名古屋、大阪、福岡のいわゆる幹線ルートに専門機が就航して速達便でない郵便物も輸送されるようになり、現在東京、札幌間に上下二便、東京、大阪間に下りの名古屋経由一便を含め上下六便、大阪、福岡間に上下二便がいずれも深夜の時間帯に運航されて一日約二五〇万通を取扱つていること、本件空港関係の専門機による郵便物はそのうち約二〇〇万通に達し、その利用地域は関東、近畿地方間のものに限らず、広く東北、北海道、四国、九州地方間のものにも及んでいること、昭和四六年一〇月からは深夜便だけでさばき切れない約一〇〇万通を昼間の旅客機により、東京、札幌間と東京、大阪間にそれぞれ下り二便、上り一便で託送していること、以上の事実が認められる。

ところで、現代のような情報化された社会にあつて、通信手段としての郵便物が正確かつ迅速に配達されるべきことは郵便の使命であると共に社会的な要請でもあるから、遠隔地あての郵便物を少しでも早く配達するための方法として航空機を利用する必要があることは、何人も異論のないところであるが、問題は本件空港の如く周辺に人家が密集した地域に深夜便を合計八便も就航させることが迅速性のために不可欠といえるかどうかである。この点に関し、永岡証人は、一日の郵便物の半分以上が夕方四時から八時までに投函されるため、主要大都市間で翌日配達を実現するには集配事務の都合上どうしても深夜便によらざるを得ず、これをもし鉄道で輸送するとすれば航空機の場合に比し丸一日ないし一日半配達が遅れてしまうこと、航空機の代替手段としては国鉄新幹線の利用が考えられるが、現在のところは路線や車両、駅舎の設備の関係で不可能であることを証言している。しかし、〈証拠〉によれば、運輸大臣は、後述するように昭和四六年一二月二八日付の環境庁長官の勧告に基づき、航空機騒音緊急対策のひとつとして、本件空港においては昭和四七年四月二七日以降午後一〇時から翌日午前七時までの間緊急その他やむを得ない場合を除き航空機の発着を行なわないものとし、郵便輸送機については輸送の代替手段を考慮して段階的に実施するものとすることを正式に決定し、郵政事務次官も昭和四七年八月一〇日付の川西市南部地区飛行場対策協議会長あての書面において、郵政省としての立場から郵便輸送機の深夜飛行につき他の代替輸送手段を考慮し、段階的に解消する方策を積極的に検討する旨確約していることが認められ、証人永岡茂治の証言によつても、右方策が具体的に検討されていることが窺われる。

思うに、深夜郵便機の代替手段としては、他の交通機関の利用もさることながら、集配事務全般の合理化を図り、運航時間を深夜から他の時間帯に移動させることによつても可能であり、効率的な作業方法を検討して配達の遅れを最少限に食い止めることに努力するならば、郵便輸送機を現状のまま存置することの必要性も大方は解消されるといつてよいであろう。

三  本件空港における騒音対策

1運航面における対策

(一) 深夜便の禁止と時間帯別騒音規制措置

運輸大臣が深夜における本件空港周辺の静穏を保つため、昭和四〇年一一月二四日の閣議了解に基づき同日以降午後一一時から翌日午前六時までのジェット機の発着を原則的に禁止し(以下一次規制という。)、次いで昭和四四年一一月七日の閣議了解に基づき昭和四五年二月五日のB滑走路供用開始以降、久代小学校に設置した騒音測定塔における騒音規制値を午前六時三〇分から七時までは一〇〇ホン以下、午前七時からは午後八時までは一〇七ホン以下、午後八時から一〇時三〇分までは離陸機一〇〇ホン以下、着陸機一〇七ホン以下、午後一〇時三〇分から翌日午前六時三〇分までは七五ホン以下とする時間帯別騒音規制措置を実施し(二次規制という。)、さらに昭和四六年一二月二八日付環境庁長官の運輸大臣に対する勧告を契機として、昭和四七年四月二七日以降午後一〇時から翌日午前七時までの間郵便機を除く一切の航空機の発着を禁止し(三次規制という。)、以来被告が各航空会社に対し右規制を尊守するよう行政指導を行つていることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、各航空会社は右指導に従いそれぞれ騒音軽減運航規程を設けて騒音の軽減につとめていることが認められる。

しかしながら、WECPNL九〇を超える地区に居住する原告らに対しても民家の防音工事の助成が未だなされていない状況の下では、右規制措置は不十分という外はない。すなわち、右各規制措置には深夜時間帯を別にすれば航空機騒音を軽減する上で最も必要な機種および離着陸回数の規制が全く存しないし、騒音レベルおよび飛行時間帯に関する制限も極めて不十分なかたちでしかなされていないことが明らかである。これを詳述すると、甲第六八号証によれば、一次規制当時その規制時間帯には本件空港に離着陸するジェット機がなかつたことが明らかであるし、当時就航していた四発プロペラ機は小型ジェット機と変りがない騒音を発していたのに、これを規制の対象外とし、しかも規制時間を深夜のみとして、離着陸のひん繁な夕方については規制の措置を講じていない。また〈証拠〉によれば、イギリス航空省は現地の社会的、経済的条件を考慮したうえロンドン空港近接地域における航空機騒音の最大レベルを昼間一一〇PNデシベル(九七ホン)、夜間一〇〇PNデシベル(八七ボス)に制限し、またニューヨーク空港当局も同じく前記条件を考慮したうえ空港周辺での最大レベルを昼夜間共一一二PNデシベル(九九ホン)に制限していることが認められるのに対し、本件空港の場合、右空港などよりは遙に民家が近接して密集しているに拘らず、二次規制における時間帯別最大騒音レベルの制限は前叙のごとく相当緩やかであり、当時当該時間帯に発着していた航空機の最大騒音レベルを制限しない範囲内で定めたものとしか考えられないような不十分なものであり、結局、右一、二次の規制とも将来における騒音量の増加や夜間便の新設を予め防止すること以外には殆んど何らの実効的な意味を持たなかつたと評価することができる。更に、甲第七六号証乙第四七号証によれば、昭和四六年一二月二八日付の環境庁長官の勧告は、午後一〇時以降翌日午前七時までの深夜時間帯における航行の禁止とその他の時間帯における発着回数の抑制、航行の改善等の措置をとるよう求める趣旨であつたにも拘らず、三次規制では右深夜時間帯における航行禁止の措置をとつたのみであり、しかも郵便輸送機はその例外とし、段階的廃止を考慮する旨表明したに止まるという不徹底なものであつた。のみならず、前叙のごとく右各規制措置には航空機の騒音を防止する上で最も必要であり有効と認められる機種や機数の制限が設けられていず、また深夜時間帯に次いで静穏を必要とする午後七時から一〇時までの騒音量規制も満足すべきものではなかつたため、その後もジェット機の大型化ないし増便が相次いで行なわれ、加えて昭和四五年四月からは騒音量が極めて大きいダグラスDC―六一の就航をも許すに至つたため、一層騒音量も増加したものであつて、結局前記の各規制措置は、いずれも極めて不十分なものであるといわざるを得ない。

(二) 騒音監視体制

〈証拠〉を総合すれば、被告は時間帯別騒音規制の実施を確保するため航空機騒音警報記録装置を設置し、本件空港周辺の川西市久代小学校、豊中市豊南小学校、伊丹市桜台小学校、尼崎市武庫東小学校、宝塚市未成学校に設けられている騒音測定塔で測定した結果を大阪空港事務所内の中央監視所で監視し、騒音データーの記録を行い、規制値を越える騒音が発生した場合空港長は違反者に対し始末書の提出を求め、違反を繰返さぬよう行政指導を行つていることが認められる。

(三) 離陸、上昇の方式

〈証拠〉によれば、被告国は空港近接地区特に勝部地区の騒音を軽減するため、昭和四五年五月四日以後B平行誘導路先端から三二〇メートル手前の地点に停止線を定め、この停止線を通過してB滑走路に向う出発機は、緊急の場合を除き住居地域に最も近い場所には停止せず、走行状態のままB滑走路に入り、そのまま離陸するというローリング・テイク・オフ方式によつて離陸するよう指導し、また高芝、むつみ地区等の騒音を防止するため、深夜に就航している郵便輸送機のYS一一については、離陸上昇して特定高度に達した後、安全運航に支障のない範囲内でエンジンの出力を抑えて上昇し、人家密集地帯を過ぎてから再び加速上昇するというカット・バック方式を採るよう指導するなど、騒音軽減に努めていることが明らかである。

2空港における騒音制御

〈証拠〉を総合すると、被告は昭和四五年二月五日のB滑走路およびB平行誘導路の供用開始にあたり、本件空港の南西端鍛近接する豊中市勝部地区の騒音および排気ガスの障害を軽減するために公益法人である航空公害防止協会をして昭和四六年三月三一日千里川提防沿いに延長二九三メートル、滑走路面よりの高さ四メートルの防音壁を建設させ、さらに同年一一月右防音壁北端と接続して延長二〇〇メートル、高さ6.4メートルの防音提を建設させたこと、また本件空港の西側に近接する伊丹市東桑津地区の騒音を軽減するために、昭和四五年に本件空港の消防庁舎西側および対空受信所付近の空地に防音林を設ける目的で、三、六二二本の苗木等の植樹を行つたこと、右防音壁の遮音効果は、勝部地区において概ね一〇ないし一五ホンと認められること、以上の事実が認められる。

しかしながら〈証拠〉によれば、被告が本件空港に設置した防音壁は滑走路面よりの高さ四メートルであるため、ボーイング七二七等エンジン開口部の高い機種の騒音を防ぐ効果に乏しく、また防音林は未だ十分生長していないので現在防音効果は全く期待し得ないし、レーダー設備が近くにある関係上将来あまり樹木が大きくなることは予定されていないため、将来における防音効果も一〇ないし二〇ホン程度にすぎないと推測され、いずれもさほど効果のあるものとは考えられない。

3空港周辺対策

公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(航空機騒音防止法、昭和四二年法律第一一〇号)は、公共用飛行場の周辺における航空機騒音により生ずる障害の防止、航空機の離着陸のひん繁な実施により生ずる損失の補償その他必要な措置について定めることにより、関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的として制定されたもので、公布日の昭和四二年八月一日から施行されている。同法が定めている空港周辺対策の主要なものは(イ)教育施設等の騒音防止工事の助成、(ロ)共同利用施設の助成、(ハ)移転補償であり以下これらについて検討する。

(一) 教育施設等の騒音防止工事助成について

航空機騒音防止法五条によれば、地方公共団体等が空港周辺における航空機の騒音により生ずる障害を防止し、又は軽減するため、学校、病院その他これに類する施設について防音工事を行うときは特定飛行場の設置者はその費用の全部又は一部を補償するものとし、同法施行令二条およびこれに基づく告示(航空機の騒音の強度及びひん度に関する告示)等において対象となる騒音の程度および補助の額等を定めている。そして〈証拠〉によれば、本件空港周辺における教育施設等の騒音防止工事はその騒音の程度から騒音軽減量三〇デシベル以上三五デシベル未満の二級の防音工事を行うべきものであることが認められ、〈証拠〉によれば、昭和四七年度までの助成実績は小、中学校、病院等の諸施設で数にして一〇六、補助額で約六四億円にのぼることが認められる。

しかして〈証拠〉を総合すると、昭和四五年度に防音工事が完成した久代小学校の防音施設の騒音軽減量は一五〇ないし五、〇〇〇ヘルツにおいて一重サッシで平均三二デシベル、二重サッシで平均三五デシベルであり、久代幼稚園のそれは二五〇ないし六、三〇〇ヘルツにおいてサッシのクランプを外した状態で平均二三デシベル、クランプを締めた状態で三八デシベルであり、加茂小学校のそれは久代幼稚園のそれとほぼ同様であるほか、さらに木製窓を閉めた場合は平均四七デシベルの防音効果を有していることが認められる。これによれば、既設の騒音防止工事はほぼ基準どおりの効果を上げているものということができ、右教育施設等における航空機騒音は、前叙のごとく完全に除去されたとはいえないまでも、大幅に軽減されたものといわなければならない。

(二) 共同利用施設の整備助成について

航空機騒音防止法六条によれば、地方公共団体が空港周辺における前記障害を防止し、または軽減するため学習、集会、保育、休養等に供する目的で共同利用施設の整備を行なう場合には、特定飛行場の設置者はこれを助成することを定めており、〈証拠〉によれば、右共同利用施設として、東久代会館が昭和四四年三月に周辺住民約四、〇〇〇人を対象として同じく久代会館が昭和四五年三月に周辺住民約六、〇〇〇人を対象として、同じく穂積センターが昭和四六年五月に周辺住民約五、〇〇〇人を対象としてそれぞれ設置されたのをはじめ、昭和四七年度までに合計五二の施設が設置され、そのため被告が支出した補助額は約六億五七〇〇万円にのぼること、右各施設は三〇デシベル以上の防音効果を有し、冷暖房装置を備えているほか、概ね学習室、保育室、休養室、集会室等を備えていること、なお東久代会館の昭和四五年一月から昭和四六年三月までの利用者数は一七、七三二人、久代会館の昭和四五年五月から昭和四六年三月までの利用者数は一〇、九二九人であつて、一日約三〇ないし四〇人の者がこれを利用していることが認められる。

しかしながら〈証拠〉によれば、既設の東久代、久代、穂積の各共同利用施設は休養室、娯楽室が襖一枚で隔てられているだけであり、また学習室も低学年高学年共用であるなど設備自体決して十分なものではないばかりか、東久代、久代の両施設にいずれも原告ら居住地域から若干離れた所に存し、かつ利用時間や利用目的も制限されていることが明らかであつて、原告ら地域住民の騒音被害を軽減するというにはほど遠いものであるといわなければならない。

(三) 移転補償制度等について

航空機騒音防止法九条は、空港周辺の指定区域内に所在する建物等の所有者が当該建物等を指定区域外に移転し、又は除去するときは、当該建物の所有者及び当該建物等に関する所有権以外の権利を有する者に対し、特定飛行場の設置者は当該移転又は除却により通常生ずべき損失を補償することができる旨、また指定区域に所在する土地の所有者が当該土地の買入れを申し出るときは、当該土地を買入れることができる旨を定め、同法施行令、これに基づく告示(昭和四三年運輸省告示第二六号)によつて、本件空港にあつては、その指定区域を航空法にいう進入表面及び転移表面のそれぞれの投影図と一致する区域のうち、滑走路の短辺の側における滑走路の中心線の延長線上滑走路末端からそれぞれ一、三〇〇メートル(昭和四四年一二月一日運輸省告示第三二三号による改正後は一、六〇〇メートルに拡張された。)の点において該当する延長線と直角をなす二つの直線によつてはさまれる区域と定め、更に右指定区域のうち特定の区域を除外区域と定めた上、除外区域内の移転補償対象物件及び買入対象土地については一定の条件を設けている。なお証人稲永正勝の証言によれば、右補償及び買入れの額は、土地収用法に基づく収用の場合等と同様の損失補償の根拠基準である公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和三七年閣議決定)に従つて算定されることになつている。

しかしながら、右区域の指定基準が航空機騒音量もしくは被害の実態にそぐわないところのあることは被告の認めるところであり、右移転補償の対象区域の拡大された後もその範囲は極めて限られたものであつて、原告らの如く滑走路に近く航空機の発着コース直下にある区域に居住する者でも右補償の対象にならない者が相当数いること、また補償額は地価公示法による公示価格を基準として鑑定され、前記の損失補償基準要綱に従つて算出されるので、騒音被害のため低下した地価を基準とした不充分な補償に止まること、したがつてかかる低い補償金で代替地を購入しようとしても、従前地と同等の土地を購入することは殆んど不可能であることが認められ、右補償制度は十分とはいい難い。

なお航空機騒音防止法一〇条には、特定飛行場における航空機の離着陸により住民が農業および漁業の経営上損失を蒙つたときはその損失を補償することが定められているが、弁論の全趣旨によれば本件空港周辺においては補償の対象となる職種に従事している者は極めて少ないため多数の住民は補償の対象とならずかつ証人稲永正勝の証言によればその補償額も極めて低いことが明らかであつて右損失補償の制度は本件空港の場合有効な対策とはいえない。

(四) 財団法人航空公害防止協会の騒音防止事業について

〈証拠〉を総合すれば、前記航空公害防止協会は本件空港周辺における被告の航空機騒音対策事業の補完として、(イ)昭和四三年八月以降テレビ受信料につき受信障害対策費として月額一五〇円の助成を行なつており、その助成対象区域も次第に拡大し、昭和四七年度においては約五万七〇〇〇件、助成額一億二〇〇万円におよび、昭和四八年度からは受信料の半額相当額を助成し、対象区域もさらに拡大することを計画し、さらに自動または手動のテレビ音量調節器の取付助成をも計画していること、なお被告は昭和四七年度以降同協会の右事業に対し事業費の半額を補助していること、(ロ)昭和四六年度から九九ホン程度まで通話の可能な騒音用電話器の取付け助成を実施し、昭和四七年度までに六、二二六台、約三、一一三万円にのぼる取付を完了し、昭和四八年度には五、〇〇〇台、二、五〇〇万円の取付けを予定していること、(ハ)さらに昭和四六年度から航空機騒音防止法に基づく防音工事対象校に対し校庭等におけるアナウンスの音量を騒音量に応じて自動的に調節しうる騒音順応型自動音量調節器の取付を実施し、右取付は昭和四七年度までに五七校、一、八八〇万円にのぼつており、さらに昭和四八年度には一五校、六〇〇万円にのぼる取付を予定していることが認められる。

しかしながら受信料の一部補助により視聴妨害を消しうるものではないし、テレビ音量調節器の取付助成も未だ計画の段階で実現していないことが明らかであるから、視聴妨害が解消されたわけではない。

4今後の騒音対策について

被告は、本件空港の代替空港として新関西国際空港の建設を計画し、設置の位置、規模等につき運輸大臣の諮問機関である航空審議会に諮問中であり、具体的な調査をも進めているというが、新空港の建設のために相当の長期間を要することはいうまでもないから、当面の対策とはなりがたい。そこで被告が今後の重点対策として検討中であるという音源対策および周辺対策について検討する。

(一) 音源対策

〈証拠〉を総合すると、ICAOが一九六九年(昭和四四年)一一月カナダのモントリオールで開催した空港周辺における航空機騒音特別会議において、航空機騒音をその発生源で軽減させるための対策として騒音証明制度を採用することが決定され、右制度は国際民間航空条約第一六附属書として標準化されて昭和四七年一月に発効したこと、騒音証明制度の概略は、新しく設計される亜音速ジェット機につきその重量に応じて一定の最大騒音レベルを設定し、この基準に合格した旨の騒音証明がなければ航行し得ないというものであること、わが国においても右制度を国内法化するため、騒音基準適合証明制度の新設等を内容とする航空法の一部改正法案が第七一国会に提出されたこと(その後審議未了となり、継続審議とされている。)、右騒音証明制度は現用ジェット機、例えば本件空港に就航中のダグテスDC八、ボーイング七〇七、同七二七等については適用されないが、ICAOの航空機騒音委員会では、一九七三年(昭和四八年)三月に開催された会議において、現用の一部のジェット機については前記騒音証明制度における基準に合致させるためのジェットエンジンの改修が技術的、経済的に可能であることを確認し、一部の開発途上国を除いて一九八〇年(昭和五五年)以前に対象航空機の改修を完了させるようICAO理事会に報告したこと、わが国においても右の趣旨に沿つて現用ジェット機の改修に努力を払う予定であることが認められる。

しかして、〈証拠〉によれば、右騒音証明の基準に合格したジェット機の騒音は、現用機の騒音基準値に比し一〇デシベル程度軽減されるものであることが窺われるから、現用機が全部新型機に入れ替り、あるいはエンジンの改修を終えた場合にはある程度の効果を期待できをかも知れないが、この問題は各国の事情や航空会社、航空機製造会社の利害とも密接に関係することであつて、早急な実現は困難であると考えられる。

(二) 周辺対策

〈証拠〉によれば、政府は、航空輸送の需要が激増し、航空機の大型化、ジェット化が進んだため航空機騒音問題が年々深刻化している事態に対処すべく、従来の対策から更に進んで、住民から航空機騒音をできる限り遮断するという基本的な方針の下に、空港周辺地域の整備、再開発を含む抜本的な対策を実施することとして、航空機騒音防止法の一部改正法案を第七一国会に提出したこと(その後審議未了となつたが、継続審議が予定されている。)、改正案の骨子は、(イ)住宅の騒音防止工事の助成、(ロ)緑地帯等の整備、(ハ)空港周辺整備計画の策定、(ニ)空港周辺整備機構の設立の四点であること、(イ)の住宅の騒音防止工事の助成というものは、概ねWECPNL八五以上の区域について、空港設置者が騒音防止工事を行なう住宅の所有者等に対し助成措置をとることを定めたもので、昭和四八年度に右助成措置を実施するための予算三億円が成立しており全国四〇〇戸分のうち本件空港関係では三〇〇戸分の助成が予定されていること、(ロ)の緑地帯等の整備というのは、移転補償等の対象区域を概ねWECPNL九〇以上の地域に拡大しそうちWECPNL九五以上の地域内にある移転補償等により買い入れた土地等につき、空港の設置者が自ら緑地帯その他の緩衝地帯として整備すべき責務を定めたものであること、(ハ)の空港周辺整備計画の策定というのは、第一種、第二種空港のうち、その周辺地域が既に市街化されているか、今後市街化されると予想されるものにつき、航空機騒音による障害の防止を図り、あわせて周辺住民の生活環境の改善に資するためには、周辺地域の土地利用を計画的に実施する施策が最も適切であると考えられるところから、このような整備が必要であると認められる空港を周辺整備空港として指定し、都道府県知事に空港周辺整備計画を策定させることとしたものであり、具体的には緑地帯等の整備、任意契約による住宅の移転とその跡地の有効な利用、移転者のための代替宅地の造成売却、移転先集団住宅の取得賃貸等の事業を想定しており、昭和四八年度において本件空港を周辺整備空港として指定することが予定されていること、(ニ)の空港周辺整備機構というのは、周辺整備空港の周辺地域において、空港周辺整備計画に基づく事業等の主体として、国及び関係地方公共団体の共同出資により、空港周辺整備機構という法人を設立し得ること等を定めたものであつて、昭和四八年度は本件空港につき右法人を設立することが予定され、このための国の予算として政府出資金七億五千万円、政府無利子貸付金一五億円、代替宅地造成事業関係補助金として三億円、合計二五億五千万円が成立していること、以上の事実が認められる。なお、乙第五三号証によれば、運輸省が本件空港周辺の民家数戸について実験的に行なつた防音工事の遮音効果は、家屋の構造や経過年数によつて差はあるが、窓を閉鎖した場合の減音量は工事前と比し最高三八デシベル(A)、最低24.8デシベル(A)、平均28.7デシベル(A)であつたことが認められる。

以上の周辺対策は、従来の対策と比較すれば遙かに積極的なものであり、早急に実施に移されるべきものと考えられるが、右対策が十分の効果を上げるためには、政府と関係地方公共団体が歩調をとり、地域住民の立場に立つて騒音の軽減に努力するという熱意が何よりも必要であろう。

四以上の認定に基づいて、本件航空機騒音等の受忍限度を検討することとする。

まず、本件航空機騒音等をもたらしている航空機の発着状況、原告ら居住地域における騒音量は、先に認定した如くであつて、発着回数は昭和三九年のジェット機就航以来毎年増加していたが、昭和四五年のB滑走路供用開始以後は更に飛躍的に増加し、原告ら居住地域の上空を殆んど絶え間なく飛来し、これに伴い、その発する騒音の程度も、機種の大型化、ジェット化と相まつて増大し続けて来たものである。このような量の騒音は、工場騒音等極めて限られた特殊な場合を除いては他に例を見ないといつて過言ではない。およそ人間が社会生活を続けて行く限りは騒音から隔絶されることは不可能であり、文明の発達に伴い生産、流通、消費の過程において、日常生活のあらゆる部面で騒音が生じているが、多くの場合は被害者と加害者との間に地位の変換が考えられ、また騒音を発する媒体によつて各人が何がしかの利益を享受しているのが通常であつて、そのためある程度の騒音は社会生活上やむを得ないものとして受忍されている。しかし、そこにはおのずから一定の限度があるはずであり、本件航空機騒音の如くその程度が著しいものについて、空港周辺地域に居住する原告らだけが何時も一方的にこれを耐え忍ばなければならない理由は見出し難い。

そして、原告らがこれによつて受けている被害は、精神上のものに止まらず、日常生活上のあらゆる面に及んでいる。もつとも原告ら一人一人について見れば各人の年令、性別、職業、生育環境、健康状態等に応じて被害の内容や程度は様々であるが、ある種の被害は他の被害の原因ともなり、また原告らだけでなくその家族にも累を及ぼしているだけに、その影響するところは複雑かつ深刻である。なお、現在のところ特定の疾病と結びつかないような内容の被害であつても、長年月の間には徐々に身体や精神に悪影響を来たすような場合もあり得るわけであるから、到底なおざなりにすることはできない。

被害の程度を考えるについて見逃すことができないのは、国がみずから定めた航空機騒音の環境基準において、住居地域は七〇WECPNL以下、その他の地域は七五WECPNL以下とし、本件空港についての五年以内の改善目標を八五WECPNL未満としている点である。もとより環境基準は規制基準と異なり、公害対策を推進するための行政目標に過ぎないから、これを越えているからとつて、そのことだけで違法性を云々することはできないが、環境基準は多くの科学的調査研究に基づいて設定されるのであり、航空機騒音の環境基準も、各種の調査研究等の資料に基づき、聴力損失等健康に係る障害をもたらさないことを初めとして、日常生活において睡眠妨害、会話妨害、不快感等を来たさないことを基本として設定されているわけである。従つて、原告ら居住地域におけるWECPNLの数値も、被害の程度を知り受忍限度を考える上での重要な尺度であるといわなければならない。

他方、被告においては航空機騒音の防止または軽減を図るべく、従来から種々の対策を講じて来たことは事実であり、中には学校等の防音工事の如く、かなりの成果を上げているものもないではないが、従来とられて来た対策は、一般的にいつて満足すべきものといい難いことは先に見たとおりであつて、航空機の需要増に即応したものでなく、これに一歩遅れていたものといわざるを得ない。しかも、本件航空機騒音等による被害については、かねてから地元住民が一団となつて再三にわたり空港当局等に対し抗議、陳情等を繰返していたことは、〈証拠〉によつて窺い知ることができ、被告の対策も右抗議、陳情を受けてなされてきたものである以上は、被告において結果発生を予見していたものというべきである。本件空港を今後も引続き存置する以上は、従来のような弥縫的なものでなく民家の防音工事の助成をも含むより積極的な防音対策を早急に実施すべきである。

なお、本件空港がわが国の航空輸送の上で、内外共に重要な役割を果していることは疑いない。しかし、かかる公共性があるからといつて、直ちに賠償責任が免責されることにはならないのであつて、前叙のように被告の管理する本件空港に発着する航空機のために原告らに深刻な被害を生じていることを考慮するならば、公共性を理由に被害者に受忍を強いることは到底許されない。公共性の犠牲者たる原告らには、公共の責任においてその損失を償うべきものである。

以上の諸点のほか、原告らの居住地域の性格、本件空港と右各地域との場所的関係、航空空機の離着陸方法、航空機の発着回数の増加程度(これに伴うWECPNL値の変動を含む。)その他諸般の事情を基礎として考えると、従来の程度の防音対策の下において本件空港にジェット機などの航空機の離発着を許容してきたことは、不法行為責任の面では、川西市のうち高芝、むつみ地区、摂代地区、豊中市のうち走井地区、勝部地区の原告らの関係においては、遅くとも昭和四〇年初め頃から、豊中市のうち利倉地区、利倉東地区、西町、寿町地区の原告らの関係においては遅くとも昭和四五年初め頃から、受忍限度を越えるものと評価すべきであり、違法性を帯びるものというべきである。

五これを要するに、国(運輸大臣)の管制に従つて本件空港に発着する航空機がもたらす騒音等により、空港周辺地域に居住する原告らが損害を被つている以上、被告は右損害について不法行為責任を免れず、国家賠償法一条一項により右損害を賠償する義務がある。

第六  差止請求について

一本件差止請求の内容は、本件空港を毎日午後九時から翌日午前七時までの間一切の航空機の発着に使用させてはならないというものである。そこで、右請求の当否について検討する。

二原告らが差止めを求める時間帯における航空機の発着状況を見るに、〈証拠〉によれば、昭和四七年五月現在のダイヤにおいて、本件空港に午後九時以降発着する航空機は、郵便輸送機を除き、国際線では八路線二二便であり、一週間の着陸機が一六機、離陸機が六機(午後八時三〇分以降についていうと九路線二三便で、一週間の着陸機は二三機、離陸機は七機)であつて、機種はいずれも大型ジェット機であること、国内線では一日の着陸機が九機(うち大型ジェット機二機、中小型ジェット機六機)、離陸機が七機(うち大型ジェット機三機、中小型ジェット機三機)であることが認められ右のほかに郵便輸送機のYS一一が午後一〇時以降に毎日八機離着陸していることは先に認定したとおりである。

三右のうち郵便輸送機について考えると、その目的からして公共性は高いけれども、前叙の如く、離着陸の時間が午後一〇時台に一機、午前一時台に三機、午前二時台に三機、午前三時台に一機といずれも深夜であるため、YS一一といえどもその騒音は原告らの睡眠の確保に重大な支障を来たしていること、WECPNLの数値の上でも、午後一〇時から翌日午前七時までの間の機数は、昼間の一〇倍として算定されていること、環境庁長官は昭和四六年一二月二八日運輸大臣に対し午後一〇時以後の航空機の発着はこれを行わないものとするよう勧告していること、運輸大臣は右勧告に基づき昭和四七年四月以降本件空港における航空機の発着は午後一〇時から翌日午前七時までの間緊急その他やむを得ない場合を除いて行なわないものとし、郵便輸送機については輸送の代替手段を考慮して段階的に廃止する措置をとる旨明らかにしていること、郵便輸送機を廃止してもこれを他の時間帯に移し、集配事務の合理化を図ることや他の交通機関の利用等の代替手段によつて配達の遅れを最少限に食い止めることが可能であり、またその具体的方策も前記環境庁長官の勧告以来すでに相当時日を経過した今日すでに用意されているものと思われること等を斟酌すると、右のような深夜の時間帯にいまなお郵便輸送機を本件空港に発着させることは、受忍限度を著しく越えたものであつて、違法といわざるを得ない。

しかし、午後九時から午後一〇時までの時間帯の航空機については、国際線の場合は出発地における出発時刻やこれと接続する他の路線との関係から、本件空港の到着時刻の繰上げは困難であり、また国内線の場合も、出発地での用務の関係や航行の所要時間等からすると、午後九時より午後一〇時より午後一〇時までの間の離着陸は必要度が極めて高いものと判断されるのであつて、これらの航空機の離着陸を差止めることは、内外の航空輸送上重大な影響を及ぼすものであり、前記の環境庁長官の勧告も、右のような国民の生活時間帯を考えその必要性の極めて大きいことを考慮して本件空港の場合は午後一〇時以降の発着を行なわないものとするにとどめたものと思われること、以上の点を考慮すると、損害賠償請求の関係は別として、差止請求の関係では、午後九時から一〇時までの航空機の発着については、受忍限度内にあるものといわざるを得ない。

四なお、午後一〇時以降についても緊急その他やむを得ない事情があるため航空機の発着が必要な場合もあり得るがこのような場合は違法性が阻却されるものといわなければならない。しかして、右要件に該当するかどうかは、本件空港設置管理者たる運輸大臣の個別的判断に委ねざるを得ない。

五以上の如く、本件差止請求のうち、本件空港を毎日午後一〇時から翌日午前七時までの間は緊急その他やむを得ない場合を除いて航空機の発着に使用させてはならないとの部分は、現に本件空港周辺地域に居住している原告ら(ただし、原告常洋子、同近藤嶋恵、同長嶺春代の三名については、後に損害賠償請求に関して述べるのと同じ理由によつて除外されるべきである。)の関係において正当であるが、その余の請求、即ち午後九時から一〇時までの間の差止請求と右原告三名の請求は、失当である。

第七  損害賠償請求について

一原告らは、(イ)全員について本件航空機騒音等によつて過去に被つた一切のの非財産権上の損害に対する賠償の内金および(ロ)訴訟中に他へ転居した者を除き将来において被ることのあるべき右同様の損害に対する賠償の内金を請求し、右にいう非財産権上の損害の意味について、原告らか等しく享受してきた自然環境とその中での生活を破壊されたことや、原告らの家庭生活がその機能を果せなくなり、健康までも蝕まれるに至つたことによる損害であると主張し、単なる精神的苦痛の慰謝のみを求めるのではなく、原告らの全生活が環境を含めて破壊されたことによる一切の損害の賠償を求める趣旨であることを強調している。しかし、そのいうところの非財産権上の損害から精神的損害を除いた場合に、どのような損害が残るのかは必ずしも明確ではなく生活や環境の破壊による損害といつてもこれを精神的損害の内容として把握することができないわけではない。従つて、本訴請求の損害金は、右のような内容を包含した精神的損害に対する慰謝料であると理解すべきであり、かかる観点に立つて過去の慰謝料と将来の慰謝料につき各別に検討することとする。なお、右の過去と将来の区分時は本件口頭弁論終結時であることはいうまでもない。

二過去の慰謝料について

1不法行為による精神的損害は、被害者一人一人について各別に生じているのであるから、これに対する慰謝料も、本来ならば各人の個別的事情に応じて差異を生ずるのは当然である。しかし、本件にあつては、程度の差こそあれ、各人に同時にまたは時を異にして一様に生活妨害が生じているという点が重視されるべきであり、かつそれが広範囲に及ぶ騒音被害であることから各人の個別的事情は、本件航空機騒音によつて通常生ずべき損害の認定に必要な事項、すなわち居住地域および右地域内に居住を始めた時期、居住期間、家族構成等について考慮するにすどめ、各人の主観的事情等は斟酌しないこととする。

2そこでまず慰謝料額の算定にあたり考慮すべき主な事情について検討する。

(一) 先ず地域別の被害程度について検討するに、すでに明らかにしたごとく川西側の高芝、むつみ、摂代地区においてはすでに昭和四〇年七月当時航空機騒音はWECPNL八〇ないし九〇に達していたが、以来機数の増加および大型化とともに次第に右数値も増加し、B滑走路供用開始後はWECPNL九〇ないし九六に達しており、また豊中側においても、走井、勝部の両地区においてはA滑走路直下にある関係から昭和四〇年七月当時ですでにWECPNL八五ないし九五に達して、その後機数の増加および大型化により次第に右数値も増加していたが、B滑走路供用開始後においては大型ジェット機が同滑走路に離着陸するようになり、原告ら居住地域が同滑走路進入路から若干はずれるようになつたため、WECPNL八五ないし九〇となり、昭和四〇年七月当時と殆んど変化がないが、頭上を飛ぶ航空機の外にB誘導路を進行する航空機の騒音も無視できなくなつている。他方これとは若干事情を異にする利倉地区は、当初B滑走路供用開始時以前における航空機騒音はさほどのことはなく、WECPNL七〇ないし七五にすぎなかつたが、B滑走路の供用が開始されるとともに一挙に増加し、WECPNL八五ないし九五に達しており、また利倉東、西町寿町の両地区においては、A滑走路進入路より南西方に存するため、昭和四〇年頃は同じくWECPNL七五ないし八〇にすぎなかつたが、B滑走路の供用が開始されるとともに急激に騒音が増加し、WECPNL九五もしくはそれ以上にも達している。このように騒音が激化した時期および程度については、名地区において差異があるから、右事情を総合勘案すると、地域別の被害の程度は、高芝、むつみ地区、摂代地区、走井地区、勝部地区は概ね同程度とみるべきであるが、利倉地区、利倉東地区、西町寿町地区はこれより一段階低いものと認めるのが相当である。

(二) 次に原告らの居住時期ないし期間について検討するに、前叙のごとく、被告は昭和三九年六月一日に本件空港におけるジェット機の就航を許可したのであるから、以来ジェット機の増便および大型化はある程度予測しうるところであり、また昭和四二年八月一日に航空機騒音防止を制定し、移転補償区域を設けたりしているから、その頃からその周辺における航空機公害の存在はより具体的に一般的にも知り得るようになつたことが明らかである。従つて昭和三九年五月三一日以前に本件空港周辺地域に居住を開始した原告らと同年六月以降に同地域に転入してきた原告らとの間および更にその後の昭和四二年八月一日以降に同地域に転入してきた原告らとの間には事情に相違があり、かかる事情の相違は慰謝料の額を算定するにあたつて考慮すべきものと考える。

(三) なおまた原告らの中には後記のごとく親子または夫婦等の関係にあり世帯を共にする者も存するが、本件の被害は主として家庭における生活妨害によるものであるから、その慰謝料も世帯を単位として考慮するのが相当である。従つて同一世帯から二人以上の者が訴訟を提起しているときは、その者の家庭における地位、年令、役割等を考慮して定めるのが相当である。

3ところで〈証拠〉を総合すれば、原告らが本件航空機公害の被害地域に居住を開始したのは、原告植田精吾が昭和一五年、同大東芳次郎が昭和一八年一二月、同米田俊雄が昭和四〇年一二月、同井下喜夫が昭和二五年、同釜谷富太郎が昭和一六年、同山崎イチエが昭和二〇年、同安芸宏美が昭和四〇年一〇月、同宮国俊之が昭和四〇年一一月、同岡部清子が昭和四一年九月、同畑森加頭子が昭和二二年、同中上静子が昭和三九年二月、同番匠宏が昭和四〇年二月、同北村正治が昭和四二年四月、同菊地武基が昭和四四年一一月、同藤原としが昭和四三年一二月、同種口タメエが昭和四二年一二月、同大西たか子が昭和三六年、同宮本とよが昭和四三年四月、同松野茂則が昭和四三年七月、同渡辺アキが昭和二一年、同喜村謙一が昭和二六年、同大森和文が昭和四二年三月であるほか、いずれも別紙五原告ら主張の被害状況一覧表居住開始日欄記載のとおりであることが認められる。〈証拠判断略〉

次に、〈証拠〉によると、原告植田精吾と同植田マスエは夫婦であり、同杉浦きくと同杉浦敏子、同久保二郎と、同久保洋子、同大橋とめと同大橋秀行、同岡山ヒラエと同岡山敏子、同岡山恭司、同岡山雅信、同丸山文子と同丸山良明、同奥村春技と同奥村かず子、同茨木民子と同茨木裕子、同谷川敏和と同谷川徹、同藤原としと同藤原豊子はいずれも親子の関係にあつて、生活を共にしていること(ただし、右のうち原告大橋秀行、同藤原としは後記の如く後に本件空港周辺地域から他に転居している。)が認められる。

また一次原告であつた岡山敏雄が昭和四五年一一月七日に死亡したこと、その結果妻の原告岡山ヒラエ、子の原告岡山敏子、同岡山恭司、同岡山雅信の四名が相続により右敏雄の権利義務を承継したことは当事者に争いがない。

更に、〈証拠〉によると、原告植田祥子は昭和四五年三月に、同加古延子は昭和四六年一二月に、同米田久野は昭和四五年六月に、同阪本茂は昭和四六年一二月に、同大橋秀行は昭和四五年六月に、同藤原としは昭和四七年一〇月に、同安場みどりは昭和四七年八月に、同籠谷初子は昭和四八年四月に、同山本英三は昭和四七年九月に、同吉田末子は昭和四七年四月に、同戸上綾子子は昭和四七年五月に、それぞれ本件空港地域から他に転居したこと、および原告田辺千代子は昭和四七年七月に移転補償を受けて旧住所からしたことが認められる。

4よつて以上の事情に本件加害行為の性質、被害の内容およびその程度、被害軽減のための各対策の実施状況、前記各証拠によつて認められる原告らの家族構成等諸般の事情を併せ考えると、慰謝料の額は、別紙二の第一表記載の者については金五〇万円、同第二表および第三表記載の者については金三〇万円、同第四表および第五表記載の者については金二〇万円、同第六表記載の者については金一〇万円をもつて相当とすべきであり、更に、原告らのうち夫婦、親子等の関係がある同第七表記載の者については(原告岡山ヒラエ、同岡山敏子、岡山恭司、同岡山雅信については亡岡山敏雄の慰謝料を金二五万円とし、これを相続分に応じて承継したものを含めて)同第七表の、訴訟中の転居者である同第八表記載の者については同第八表の慰謝料欄記載の金額が相当である。

5ところで、原告らのうち原告常洋子が肩書住居地に転入したのは昭和四五年七月、同近藤嶋恵のそれは昭和四五年六月、同長嶺春代のそれは昭和四六年四月であつて、いずれもB滑走路の供用が開始され、ダグラスDC八―六一等の大型ジェット機の就航が始り、航空機騒音が激化した後にそれぞれその居住地に転入して来たことが明らかであり、各原告らは前記侵害行為の存在を知悉しながら転入して来たものと認められるから、同人らは本件航空機公害の被害地域内に敢て自ら進んで住居を選定したことになり、これに本件航空機騒害の性質程度および本件空港のもつ高い公共性を考え併せると、右原告らの被害につき被告に慰謝料の支払義務を負わせることは妥当でない、この種損害については被害者である右原告らにおいて受忍すべきものと解するのが相当である。

三  将来の慰謝料について

原告常洋子、同近藤嶋恵、同長嶺春代が損害賠償請求権を有しないことは前叙のとおりであり、このことは将来請求に、ついても同様であるから、その余の原告らの将来請求の当否について検討するに、被告が騒音防止対策等の不十分なままその管理する本件空港に前叙のごとき騒音等を航空機の発着を認め、原告ら地域住民に損害を与えていることは前記認定のとおりであり、今後騒音防止対策等が講ぜられるにしても騒音等による被害がなくなるまでにはなお相当の日時を要するものと思われる。しかしながら、本件航空機騒音等がもたらす被害の程度、従つて原告らの被る精神的損害は防音対策等の実施やその効果等の如何によつて影響を受けるのは当然であるところ、被告は航空機騒音による原告ら空港周辺住民の日常生活上の障常を軽減するため、近く移転補償区域の拡大、移転補償における代替地の斡旋、民家防音工事の助成等各種の対策を講じる予定であり、しかもその一部については既に予算措置を講じており、その他深夜の郵便機の全廃、騒音レベルの制限等の措置を期待し得ないわけではなく、かかる対策が講じられた場合にはその結果如何により原告らが被るであろう精神的損害も軽減されもしくは消滅することも予想されるが、右対策の実施およびその効果の発生は将来にまつべきものであるから、慰謝料算定の基礎となるべき事実ないし条件は未だ確定していないものといわざるを得ない。従つて原告らのこの点に対する請求は失当である。

四  弁護士費用

1原告らが本件訴訟の遂行を弁護士木村保男をはじめとする本件訴訟代理人らに委任したことは当事者間に争いがなく、甲第二一八号証によれば、原告らは昭和四八年五月一日に前記代理人らとの間で同代理人らに支払うべき弁護士費用に関し、損害賠償請求については過去および将来の損害賠償を通じて請求額の一五パーセント、夜間発着の差止請求については原告一人について七万五〇〇〇円を支払うことを約していることを認めることができる。

2ところで、本件訴訟の遂行には専門的な知識と技術を要することは明らかであり、原告らが本件訴訟の遂行を弁護士に依頼することは原告らの権利の伸長にとり必要やむを得ない措置であるから、右委任に伴う出捐は本件不法行為から通常生ずべき損害というべきであり、本件訴訟の性質、遂行の難易、請求認容額等諸般の事情を斟酌すれば、前記弁護士費用のうち被告の負担すべき額は、差止請求については一人につきいずれも金二万円、慰謝料請求については認容額の約一割を基準として定めるのが相当である。よつて被告が負担すべき弁護士費用は別紙二の第一記載の原告らについてはそれぞれ金七万円、第二表および第三表記載の原告らについてはそれぞれ金五万円、同第四表および第五表記載の原告らについてはそれぞれ金四万円、同第六表記載の原告らについてはそれぞれ金三万円、同第七表および第八表記載の原告らについてはそれぞれ同表の弁護士費用欄記載の金額をもつて相当というべきである。

第八  結論

以上判示したところによれば、被告は別紙二の第一ないし第七表記載の原告らのために主文第一項記載の時間帯において緊急その他やむを得ない場合を除いて本件空港に航空機を離着陸させてはならない義務があり、さらに別紙二の第一ないし第八表記載の原告らに対し、主文第二項記載の各金員および各内金に対する遅延損害金を支払う義務がある。

よつて別紙二の第一ないし第八表記載の原告らの本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、同原告らのその余の請求および原告常洋子、同近藤嶋技、同長嶺春代の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条ただし書、金員支払を命じた部分の仮執行の宣言およびその免脱の宣言につき同法一九六条を適用し、なお差止を命じた部分についての仮執行宜言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(谷野英俊 青木敏行 福井厚士)

別紙一

当事者目録

一 原告ら

1 昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件

(一次)原告

原告1 植田精吾

外三〇名

2 昭和四六年(ワ)第二四九九号事件

(二次)原告

原告 1 植田マスエ

外一二三名

3 昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

(三次)原告

原告 1 高田キミ

外一〇八名

4 昭和四四年(ワ)第七〇七七号、昭和四六年(ワ)第二四九九号、同第五六六九号事件原告ら訴訟代理人

弁護士 木村保男

外八一名

二被告

被告     国

右代表者法務大臣 中村梅吉

右指定代理人 岩佐善巳

外八名

別紙二

(第一表)

昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件

武川陽之助

大東芳次郎

嘉松幸一

生駒籠輔

長井孝一

池田亀太郎

伊藤隆雄

多田佐恵子

細見栄次

森島勇

井下喜夫

十七巳之助

田井中一技

中井誠一

平川利一郎

吉森忠雄

細川勝巳

昭和四六年(ワ)第二四九九号事件

野沢正雄

本田敏一

釜谷富太郎

山崎イチエ

中村まつ

前二三一

南松枝子

森頼光

木田金之助

吉本一彦

伊井光義

佐谷勇

田中里央

野村ナツエ

安行久子

白石義雄

阪上昭子

瀬部福夫

原口ハルエ

中西極

尾張みつ子

関沢龍吉

西村勲

香川チカエ

坂本俊江

福田スガ

土坂由松

明石多代

小林コスエ

福永ユミ

森松馬吉

東内義雄

三戸チエ子

前長藤吉

渡辺トシ子

村上武夫

鈴木ンメン

山内春男

奥村市松

小田作治

古隅五郎

六浦貞子

山本陽子

黒山卯之助

末広澄美子

古庄豊

山田とみ

木原よしの

山口多八

田中鯉三郎

驚尾いち

前田好雄

阿世賀主夫

溝手清太

室谷常亮

西林滋

泉澪

上岡富貴男

畑光雄

松村岩夫

神座直二

鹿喰秋江

頼富千代子

岡部只

井上正太郎

西林栄

河村長太郎

今西初男

長江梅子

武田昇

畑森加頭子

谷沢広作

板東道子

平井光子

長船幸子

岸本辰雄

中上静子

伊藤ハル

久永ヨシエ

半田操

坪谷徹男

大森栄

田野十一

坂田寿々え

河合きよ

浜本富士男

世登千代美

白石英樹

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

樋上勝

樋上末三

古沢宗七

田辺政蔵

今井忠治

渡辺アキ

渡辺忠治

土田信子

喜村謙一

辻村正治

辻上兵一

中井昭治

寺野清次郎

田辺芙美子

田辺忠雄

遊上利一

渡辺美治郎

田辺キヨ

山内松子

中島きくえ

田辺昌江

森田春栄

山内弘

山田久吾

田辺芳太郎

森田一三

下村重好

別紙二

(第二表)

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

影山和子

高橋要

早川春二

福地和子

小幡文

高松雄

谷口藤喜男

吉富潔

勇伊宏

鳥越とみ子

中村己代子

森多スエノ

黒川悦子

清田エイ

大西たか子

中島桂子

椿本竹夫

古田容子

近藤初夫

宮本暁枝

高木忠蔵

角妙子

布村美芳

玉置千代子

山田裕三

杉本きん

橋川喜美子

前田美枝子

関本久次郎

宮本昭典

中川義一

長越秋一

若杉与市

亀田健一

中川一三

中川清

佐々木真作

別紙二

(第三表)

昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件

河原熊太郎

米田俊雄

昭和四六年(ワ)第二四九九号事件

安芸宏美

草刈節子

草刈信子

杉山節子

老田好次郎

浅海清美

谷敏子

田中照美

山根千枝子

宮国俊之

山田健紀

久保田好子

作本義春

中務誠一

藤田清

堀口たづる

新田半造

三崎宗一

前田トヨ

岡部清子

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

石橋種和

大森和文

尾村まさえ

井上清子

高木恵子

別紙二

(第四表)

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

高田キミ

田村佳子

番匠宏

片岡邦昭

北村正治

中内許子

岡忠義

長谷川富江

谷口良雄

原明義

繁山実

別紙二

(第五表)

昭和四六年(ワ)第二四九九号事件

大野宏彦

小州頼子

宮下正富

森内こまち

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

金森千鶴子

遠山美智夫

佐藤義人

別紙二

(第六表)

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

高橋健造

菊地武基

有村貞則

吉田恵美子

仲田小次郎

森田サトエ

佐藤義広

樋口タメエ

中岡三千代

小田幸子

藤波世津子

野川邦子

芝原ハル

宮本とよ

松野芳則

別紙二

(第七表)

昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件

氏名

認容金額

内慰謝料

訳弁護士費用

仮執行免

脱担保金額

植田精吾

三五万円

三〇万円

五万円

一八万円

杉浦きく

三五万円

三〇万円

五万円

一八万円

杉浦敏子

一九万円

一五万円

四万円

一〇万円

久保二郎

二四万円

二〇万円

四万円

一二万円

大橋とめ

三五万円

三〇万円

五万円

一八万円

岡山ヒラエ

二四万円

二〇万円

四万円

一二万円

岡山敏子

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

岡山恭司

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

岡山雅信

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

昭和四六年(ワ)第二四九九号事件

氏名

認容金額

内慰謝料

訳弁護士費用

仮執行免脱

担保金額

植田マスエ

二四万円

二〇万円

四万円

一二万円

丸山文子

二四万円

二〇万円

四万円

一二万円

奥村かず子

三〇万円

二五万円

五万円

一五万円

奥村春枝

三〇万円

二五万円

五万円

一五万円

茨木民子

四六万円

四〇万円

六万円

二三万円

谷川敏和

四六万円

四〇万円

六万円

二三万円

久保洋子

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

丸山良明

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

茨木裕子

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

谷川徹

一三万円

一〇万円

三万円

七万円

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

氏名

認容金額

内慰謝料

訳弁護士費用

仮執行免脱

担保金額

藤原豊子

八万円

五万円

三万円

五万円

別紙二

(第八表)

昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件

氏名

認容金額

内慰謝料

訳弁護士

費用

遅延損害金起算日

仮執行免脱

担保金額

植田祥子

三三万円

三〇万円

三万円

昭和四五年四月一日

一七万円

加古延子

四四万円

四〇万円

四万円

昭和四七年一月一日

二二万円

米田久野

三三万円

三〇万円

三万円

昭和四五年七月一日

一七万円

昭和四六年(ワ)第二四九九号事件

氏名

認容金額

内慰謝料

訳弁護士

費用

遅延損害金起算日

仮執行免脱

担保金額

阪本茂

二八万円

二五万円

三万円

昭和四七年一月一日

一四万円

大橋秀行

一七万円

一五万円

二万円

昭和四五年七月一日

九万円

昭和四六年(ワ)第五六六九号事件

氏名

認容金額

内慰謝料

訳弁護士

費用

遅延損害金起算日

仮執行免脱

担保金額

藤原とし

四万五千円

四万円

五千円

昭和四七年一一月一日

二万五千円

安場みどり

九万円

八万円

一万円

昭和四七年九月一日

五万円

籠谷初子

三三万円

三〇万円

三万円

昭和四八年五月一日

一七万円

山本英三

二八万円

二五万円

三万円

昭和四七年一〇月一日

一四万円

吉田末子

三九万円

三五万円

四万円

昭和四七年五月一日

二〇万円

戸上綾子

三九万円

三五万円

四万円

昭和四七年六月一日

二〇万円

田辺千代子

三九万円

三五万円

四万円

昭和四七年八月一日

二〇万円

別紙3

大阪国際空港年間離着陸状況一覧表

年(昭和)

39

40

41

42

43

44

45

46

47

区分

航空機発着回数

72,818

81,066

86,924

94,520

107,384

126,226

150,730

157,212

152,674

39年を100とした場合

100

111

119

130

147

173

207

216

210

航空機発着回数中

国際線

2,144

3,762

5,898

8,488

10,218

12,404

16,968

22,422

21,216

2.9%

4.6%

6.8%

9.0%

9.5%

9.8%

11.3%

14.3%

13.9%

ジェット機

1,540

12,778

26,746

34,702

39,900

49,294

67,714

82,524

89,964

2.1%

15.8%

30.8%

36.7%

37.2%

39.1%

44.9%

52.5%

58.9%

別紙4 原告ら主張の被害状況一覧表

〈省略〉

別紙5 大阪国際空港時間帯別離着陸状況一覧表〈省略〉

別紙6 騒音測定表〈省略〉

別紙図面(一)〈省略〉

別紙図面(二)(大阪国際空港図)〈省略〉

参考 騒音の単位について

本文中に使用した騒音の単位の意味内容は,次のとおりである。

1 ホン,デシベル(dB)

騒音計によつて測定した騒音レベルの単位。騒音計には,A,B,Cの聴感補正回路があり,ホンは回路で測定した場合のみ用い,デシベルを用いるときは回路の名称を付するのが普通である。騒音規制法に基づく一般騒音の環境基準や規制基準の単位として使用されている。

2 フオーン(Phon)

周波数1000サイクルを標準とし,感覚補正をした音の大きさのレベルの単位。

3 PNデシベル

航空機騒音の知覚騒音レベル(Per-ceived Noise Level, PNL)の単位。航空機騒音のうるささを,ホンやデシベルよりもよりよく表現するために,クライターが提唱し,国際標準化機構(ISO)や国際民間航空機関(ICAO)でも採用されている。ホン(A)に13を加えた数値にほぼ等しい。

4 ECPNL (Equivalent Confinoous Perceived Noise Level)

等価平均騒音レベル,即ちある期間

(通常1日)に観測されるすべての航空機について,1機ずつの騒音量を加えた全騒音量を時間平均したもの。ICAOによつて国際基準として採用されている。

5 WECPNL(Weighted ECPNL)

加重等価平均騒音レベル,即ちECPNLに時間帯や季節による補正を施したもので,ICAOによつて提唱された。時間帯による補正は,1日を昼(7時から22時まで)と夜(22時から7時まで)に2分する場合と,昼(7時から19時まで),夕方(19時から22時まで),夜(22時から7時まで)に3分する場合がある。簡便法では時間帯のみの補正を3分法によつてし,夕方の機数を昼の3倍,夜の機数を10倍することになつている。騒音規制法に基づく航空機騒音の環境基準の単位として使用されている。

6 NNI(Noise and Number Index)

イギリスで,ヒースロウ空港周辺における騒音測定結果と住民反応の調査結果

から得られた航空機騒音の評価方法の単位。

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